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(死ネタ)



 ニュースで流れる殺人事件、事故、訃報。ニュースにすらならない誰かの死。毎日たくさんの人間が死んでゆく。万物は流転する、と昔の学者は言ったらしいけれど、まさにその通りだと思った。
 人の死になど興味はなかった。他人は所詮、他人だ。自分が死んだわけではない。家族が死んだわけではない。友達はいない。(ああ、でもきっと、ディヴァインが死んだら悲しいわ)……他人などどうでもよかった。それは他のみんなもそう。みんな、わたしが死んだって、誰も気づいてくれやしない。誰も悲しんでくれやしない。パパやママだって、化け物が死んでせいせいするに違いない。他人の死なんてどうでもよかった。きっと私は目の前で見知らぬ誰かが血を吐いても、冷静でいられる。
 だってわたしは黒薔薇の魔女。他人なんてどうでもいいし、ましてや誰かを傷つけたとしても、誰かのために悲しむだなんて、ありえない。ありえっこないわ。だって私は魔女だから。



 人の死がこわくなった。他人は所詮、他人だ。自分が死んだわけでも、家族が死んだわけでもない。けれど友達がもしもこうなったら、という想像をすると、とてもとてもおそろしくなった。(ああ、私きっと、みんなが死んだら悲しいわ)……他人と言う存在が、とても大きくなった。イリアステルと遊星のデュエルの時、自分を頼った小さな手。この子が死んだら、私はきっと、泣いてしまう。きっと私は目の前で見知らぬ誰かが血を吐いたら、その人に駆け寄って、あわてて救急車を呼ぶに違いない。それが普通、それが当たり前。けれど私にとっては、とても大きな変化。
 だってわたしは人間だから。みんなと出会って、チームファイブディーズの仲間として、シグナーとして、一緒に戦い、喜び、笑い、怒り……たくさんのことをわかちあう、仲間だから。誰かのために悲しみ、仲間が死んだら、きっとわたし、とても悲しい。だから私は守ろうと思った。大切なみんなを。だって私は仲間だから。



「……ゆるさない。ゆるさないわ」


 ぎゅ、と抱きしめた大きな体。ぼろぼろに避けたグローブの隙間から覗く褐色の肌はひどくつめたい。唇は色を失い、かたく閉ざされた瞼は開かない。こんなことってない。こんなことって、ないわ。


「ゆるさない。絶対に、ぜったいに、お前たちを、ゆるしなどしない」


 みんなが死んだら悲しいわ。
 とても悲しい。悲しくて悲しくて胸が張り裂けそう。目がとけて流れてしまうんじゃないかというくらい、とめどなく涙が零れて落ちる。乾いたコンクリートを濡らしていく。悲しい、とても、悲しいわ。かなしくって、死んでしまいそう。
 だけどわたしはまだ死ねない。この痛みを、やつらに与えるまでは、死んでも死にきれなどしない。

「ゆうせいがどんな気持ちでおまえたちを守ってきたか、何故わからないの。何故わかろうとしないの。そんなに力が怖い?その力に守ってもらっていたくせに!ずっと、甘えてきたくせに!縋ってきたくせに!」

 シグナーの痣が、鈍い光を放つ。彼と同じ光。この光によって、彼は命を失った。化け物、そう言って石を投げられた。彼が何をしたと言うの。お前たちを守っていただけじゃないか。みんなのために、ネオ童実野シティのために、がんばってきただけじゃない。それなのに、どうだ、この仕打ちは。
 ゆるさない。ゆるさない、ゆるさない、ゆるさない!


「冷たい炎が、世界のすべてを包み込む……」


 おまえたちも、同じ目にあってしまえば、いいのよ!


「漆黒の花よ、開け!」


 私の背後で、薔薇が渦を巻く。蔦が伸びる。薔薇の花びらはやがて集まり翼になり、蔦は絡み合い、大きな体を形作る。ソリッドビジョンではない、紛れもない、現実。


「現れよ―――ブラック・ローズ・ドラゴン!」


 けたたましい咆哮とともに、薔薇の竜がその姿を現す。私が一声命令すれば、竜は私の望むまま、彼らの命を奪うだろう。そうすれば、一瞬で終わる。一瞬で終わらせることができる。(……私のこの悲しみは、きっと、癒せないだろうけれど)
 それでもわたしはもう、失ってしまった。これ以上私が失うものなんてない。だからわたしはすべてを壊す。
 だって、私は黒薔薇の魔女。他人なんてどうでもいいし、ましてや誰かを傷つけたとしても、誰かのために悲しむだなんて、ありえない。ありえっこないわ。だって私は魔女だから。




(わたし、仲間が死んでも悲しくないの。だってもう涙も出ない。
嗚呼、憎い、憎い、憎たらしい!わたし、ぜんぜん悲しくないわ、本当よ。だってこんなにも、私の心は怒りと憎しみでいっぱいなんですもの!)



―――――――
イメージ・タイトルはSound/Horizonの「彼女が魔女になった理由」より。
こんなアキさまが書きたかった


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