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 意識が、浮上する。

 重い瞼をゆるゆると持ち上げる。起動させたまま眠ってしまったのであろう、スリープモードにすらなっていなかったパソコンのデスクトップの明かりが、ぼんやりと暗闇に浮かんでいた。ブルーノはごしごしと手の甲で目を擦り、欠伸を噛み殺す。どうやら、作業の途中で寝入ってしまったらしい。ガレージは既にパソコン以外の電気は落とされている。それもそのはず、パソコンの時計に目をやると、時刻は4時を回った頃だった。

 緩慢な動作でパソコンの電源を落とす。もう眠れる時間は僅かだろうが、少しでも疲れを取っておきたい。ふらふらと覚束ない足取りで、自分のベッドへと向かう。だが、ベッドには何故か、既に先客が居た。ぼんやりと暗闇の中に人影が見える。闇に目を凝らすと、特徴的な跳ねた髪の毛が目に入った。だんだん目が慣れてくると、次第にその人影が誰であるのか、はっきりと認識できるようになった。


「……遊星?」


 思わず声に出してしまったが、ぐっすりと眠っているらしい遊星は気づかない。すうすうと穏やかな寝息を立て、毛布を被って、ベッドの端の方で横向きに丸まっている。まるで小動物のようだ、と思って、ブルーノは苦笑した。
 ベッドを間違えたのか、それとも何か意図があったのか。眠ってしまっている彼に真意を確かめることはできないが、今夜遊星のベッドを借りて寝た方が良さそうだ。
 おやすみ、遊星―――そう呟こうとして、思いとどまる。

 なんとなく、眠る遊星の頬に、触れてみた。あたたかい、けれど自分よりも幾許か体温の低い彼の体。そのまま指をすべらせ、首へ、鎖骨へ、徐々に下ろしていく。そしてインナーの上から、彼の胸に、触れた。

 左胸。心臓の位置する場所。人が生きているという証。服の上からと言うこともあり、感じられる心臓の鼓動はかすかだったが、確かに規則正しいリズムを刻んでいた。とくん、とくん。ああ、彼は生きてここにいる。そんな当たり前のことに、どうしようもない嬉しさがこみ上げてきた。


 生きている。彼はここで生きている。そんな彼の隣で、自分も確かに。


 ブルーノは、空いている手で自分の左胸に触れた。上着の上から触れたそこは、鼓動が感じられない。けれど生きている。遊星と同じように、遊星と同じ場所で、遊星と同じ時間を。生きて、いる。


(きっと、これからだってそうだ)


 そう確信している。それなのになんだ、この、胸中で渦巻く不安と疑念は。
 ぎゅっと、自らの服を握り締める。心臓を鷲掴むように。
 ―――大丈夫。だいじょうぶ、
 自分に言い聞かせながら、服を握った手に力を込めた。
 大丈夫。もうすぐチーム・ニューワールドとの決戦があるから、緊張しているだけだ。彼らとの戦いで、このネオ童実野シティは変わってしまう。遊星たちのデュエルの勝敗によっては、様々なものが変化してしまう。だから少し、心配なだけだ。きっと、そうだ。大丈夫、遊星たちを信じればいい。彼らは、必ず勝ってくれる。

 ……勝って、くれる。なにも心配なことなど、いらない―――いらないのに、そう思えば思うほど、不安が肥大していく。ブルーノを侵食していく。


(ぼくは、何を恐れているんだ……)


 とてつもなく恐ろしい何かが、待ち受けているような気がした。


「……ぅ、ん……」

 不意に遊星が小さく呻き、寝返りを打った。ブルーノは慌てて手を引っ込める。遊星を起こしてしまったかと思ったが、そうではないらしい。ほっと安堵の息をつき、けれどすぐに真剣な眼差しで、眠る彼を見下ろす。

 ……遊星。彼を守ることこそが使命だ。彼を生かすために、彼と生きるために。もしもの時は―――彼を自分が守ればいいのだ。そう決意し、ふたたび、遊星の頬に触れた。ブルーノの手の大きさと比べれば、小ぶりに見えてしまう顔。ブルーノは身をかがめると、両頬を手で包み込み、半開きの唇にそっとくちづける。起こさないように、できる限り、そうっと。


(ゆうせい)
(遊星、ぼくは、君と……)


 ―――ああ、もうすぐ、夜が明ける。




――――――――
そういえばブルーノちゃんってソファで寝てますね…



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