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(事後です)



 非生産的だとは思う。親が聞いたらなんと言うかもわからない。きっと嘆くだろうなあ、とも思う。彼の両親も同じだろう。そりゃあ、男同士で不毛なことではある。女の子ならお嫁に行って幸せに暮らしてほしいと思うだろうし、男だったら可愛いお嫁さんをもらって幸せな家庭を作ってほしいと望まれるだろう。
 だけれど自分たちは、可愛い女の子と一生を共に過ごすだとか幸せな家庭を作るだとか、それらから遠く離れたひどく背徳的なことに及んでしまった。もう言い訳もするまい。後悔だって別にしているわけではない。ただ常識だとか一般的に見たら、という仮定においての話、だ。


 だけれどそうでなければ後悔すらさせてくれないのが、この遊城十代である。十代は人間的な魅力にあふれた好青年だった。明るく笑い、本当に楽しそうにデュエルをして、オシリスレッドという立場でありながらもイエローやブルーの生徒までの注目を一身に集めてしまう不思議な魅力の持ち主。
 自分も例外ではなく彼に惹かれた。似たもの同士だった自分たちは元々あたりまえのように相容れ、ほんの短い間に親友にまで発展した。そこまではよかった。ただ、深入りしすぎてしまったのだ。

 気がつけば、自分は十代を目で追っていた。仕草のひとつ、紡ぐ一言、すべてに意識を集中させていた。デュエルの時も、一緒にドローパンを買いにいくときも、意識せずにはいられなかった。十代の声が、ひとつひとつのパーツが、とてもすばらしいもののように思えてきた。病気だった。完全に、恋の病にかかっていた(我ながらあほらしい)。

 十代が悪い、といいわけをしてみる。片思いだった、そのはずだった、ただ何かの弾みで自分は口を滑らせた。俺は十代を、ともだちとしてじゃなくて、好きなんだよ。そんなことを口走った気がする。十代は大きな瞳をぱちくりさせて、俺を見ていた。
 ああやばい引かれた、もう親友としてもいられなくなる。絶望的になっていた俺に、にっこりと、十代は笑いかけてきた。ヨハンも俺とおなじだったんだな、そう言って俺の手を握り締めた十代が、その時俺には天使に見えた。

 それからだ、俺たちは友達以上のことをするようになった。肩を組むのより、手をつなぐ方が緊張した。初めてキスするときは、十代がそれはもう蒸発しそうなくらい真っ赤になっていた。それがかわいくて勢いでくちづけると、十代は照れたり怒ったり忙しくしながらも、嬉しそうにはにかんで、それがまた可愛いと思った。俺たちはそれなりにそれなりの「恋人同士」をやっていたのだ。

 ただ一度手に入れると欲が出る。だから俺は、それ以上を望んでしまった。十代がほしい、たぶん言ってしまえば陳腐な一言で誘ったんだと思う。さすがの十代もその言葉の意味はのみこんでくれたのか、ああ、とかうう、とか呻いてから、小さな小さな声で、ヨハンならいい、と言ってくれた。


 ああ、やってしまった。改めて思う。完全に勢いと雰囲気で押してしまった。十代にはきっと、かなりの負担がかかってしまったことだろう。散々泣いていたせいで、目元は少し赤い。喉もかれてるかもしれない。鬱血のあとが今は痛々しく見える。ああごめん、まじでごめん十代。自分の堪え性のなさに涙が出そうだ。

 一人で自己嫌悪モードに陥っていると、隣で眠っていた十代がもぞりと動いた。ぎくりと体を強張らせ、恐る恐る顔を覗き込むと、うっすら瞼が持ち上げられている。十代は俺を見るなりにっこりと笑って、けれど体を動かして、思い切り顔をしかめた。「腰いってえ…」そうつぶやいて、枕に顔をうずめる。悪い十代、呟くと謝るんじゃねえよばか、と怒られた。「俺がいいって言ったんだから」ああ、おまえって奴は。今すぐ抱きしめたいのを押さえ込んで、俺はベッドから起き上がった。ブルー寮は冷暖房完備だ、おかげで部屋は暖かいが、エアコンを付けっぱなしにしていたせいで喉がカラカラだ。
 服を着るのも面倒だ。とりあえず下だけ履いて、のろのろとテーブルの上に置きっぱなしだったミネラルウォーターのペットボトルを手にする。一口それを飲むと、十代がかすれた声で、俺にもくれとせがんでくるから、それをベッドに投げてよこした。十代は億劫そうに体を起こして、水を飲み始める。
 たったそれだけの挙動にまで反応しかける辺り俺って若いなあと自分で思う。ああだけどこれ以上無理させたら嫌われそうだ、だから大人しくやめておこう。今日が日曜日で本当によかった。


 もう一度寝ようかとベッドに戻って、十代の隣に潜り込む。十代も二度寝するつもりだったのか、寝ようとする俺を咎めずに、毛布を肩まで引っ張り上げた。「なあヨハン、」幾分か水分で潤わされた声に呼ばれて、十代を見る。「やっぱおれ、お前のこと、好きだ」十代は唐突にそうとだけ言って、俺の方に身を寄せると、器用にも数秒かからず眠りに落ちた。



 ……ああ、そいつは卑怯だ、十代。穏やかに眠る十代を起こす気にもなれず、俺は諦めて十代の肩に手を回して、そのまま目を閉じた。夢の中にまで、十代が出てきそうだった。




―――――――
なんかすいません



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