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 十代、なんて名前、そうそうない。ヨハンは目の前でデッキ調整に精を出す十代をぼんやりと見つめながら、そう思った。
 世代や年代のことを指しているはずの言葉が、そのまま名前になっているなんて。日本人の名前に詳しいわけではないが、日本中探しても、彼と同じ名前で同じ字を書く人間は、そういないだろう。
 つくづくおかしな名前だ。最初に名前を聞いた時から、なんとなくそう思っていた。言葉に、形にしてみると、改めて思う。十代、異国の自分から見ても、変わっている。


 遊城十代。


 やっぱり変だよなあ。ヨハンはそう思いながら、先ほど購買で買った新しいカードに目を輝かせたり、デッキに入れるか否かで眉間に皺を寄せたりと、百面相をしている十代の横顔を見つめ続ける。やがて十代は一枚のカードを手にしたまま、ヨハンの方を振り向いた。


「なあヨハン!このカードなんだけどさ、どうしたらいいと思う?オレは入れたいんだけどさ」
「どれどれ?……あー、このカードなぁ。便利なんだけど、お前のデッキじゃシナジーしないんじゃないか?」
「げ、マジで?そっか…じゃ、やめとくかな」


 十代はカードを丁寧に元々入っていたパックに戻してから、ありがとうな、と満面の笑みを浮かべた。もしヨハンの判断が間違っていたら、と言うことは考えないのだろうか。こういう素直なところは彼の美点であるとヨハン自身思っているが、騙されやすい性格なのではないかと思う。
 苦笑しながらそれを切り出せば、十代は少し顔を赤くして、それがオレなんだよ!と声を張り上げた。

「まぁ、人を疑ってかかるお前じゃないのはわかってるけどな。でも、十代……」
「? でも、なんだよ」

 言葉を切ったヨハンの瞳を、十代は覗き込んだ。鳶色の瞳に、間抜けな顔の自分がうっすらと映り込む。

「なあ、十代」
「何だよ」
「……十代」

 ―――十代、なんて名前、そうそうない。

 ―――つくづく、おかしな名前だ。

 そう思っていたはずだった。他の名前と比べても、やはりおかしいと、ずっと思っていた。今だって、そうだ。おかしな名前、そう思う。けれどヨハンの口から零れたその響きは、不思議なほどヨハンの中にすとんと落ちた。これが腑に落ちるという奴か、ぼんやりとそんなことを思いながら、不思議そうに瞬く十代を見つめる。

 十代。変わった響きのおかしな名前。音にしてたったの四音。おかしいとばかり思っていた名前が、今は、すんなりと馴染む。それは彼と自分が親しくなったからなのか、それとももっと何か、別の―――。


「ヨハーン!何ぼーっとしてんだよ!」
「……十代」
「ん……今度はなんだよ?」
「………じゅうだい」


 うわ言のように何度も繰り返し、ヨハンは十代に体重を預ける形で抱きついた。十代は床に倒れこみそうになりながらもなんとか堪える。なんだよ、いきなり何すんだよ、と言う抗議の声は、嫌がっている風ではなかった。表情は確認できないが、そのことに安心して、ヨハンは十代を強く抱きしめる。


「何かさぁ……お前の名前って、不思議だよなぁって思って……」
「名前?……オレの名前って変?」
「ああ、そりゃ……いや、そうでもないぜ。オレは好きだな、お前の名前。すげえ好き。なんかもう……一日何回呼んでも飽きないな。お前の名前呼ぶの好きだ」
「なんだそりゃ。オレもお前に名前呼ばれるのは好きだけどさ」


 十代は軽く笑って、ヨハンの頭の上に手を置いた。少し指先が冷たい。
 じゅうだい、ともう一度呼んでみる。それに答えるようにヨハンの頬に手が滑り降りた。





―――――――
「十代」って言う響きがすごい好きです…



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