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 運命とは皮肉だと思った。
 かつて自分が打ち負かした相手と、見知らぬ世界、見知らぬ場所で二人きりというこの状況がだ。

 自分に負けて以来勝利を得ることのできなかった彼は、自らのデュエルの形を変えることで、再び勝利の栄光を手にした。そんな彼が自分に負けたことを今更意識しているとも思えないが、やはり皮肉ではある、と思う(そもそも彼は自分に負けたということではなく、きっと、負けること自体に対してのおそれを抱いていたのだろうけれど)。
 自分も今更過去のことを蒸し返すつもりはない。だが何も言わず自分と行動を共にし、時には共にデュエルをしている彼を見ていると、なくしたはずの興味が膨れ上がってくる。


 おかしな男だと思う。


 そもそもこちらの世界に飛ばされた時もそうだった。たまたま近くにいたから、彼と自分は同じ次元に落ちたのだろう、目が覚めた時、彼が顔を覗きこんでいた。目が覚めたのか、そう呟いた彼は、ならば行くぞと焚いていた火を消して早々に立ち上がった。
 意識を失ってしまっていた自分を、彼は待っていたらしかった。
 同じ次元にいたとは言え、自分を待っている理由はないにも関わらず、だ。所詮同じプロデュエリストで、以前デュエルをしただけという、それ以上でも以下でもない関係のはずが。彼は自分を置いていかなかった。それどころか横たえられていた自分の体には彼の黒いマントがかけられていた。とんだお人よしだ。
 かつて打ち負かされた。既にないのであろうわだかまりを差し引いても、彼は自分を放っておくだろうと思ったのに。


「どうして僕を放っておかなかった?」


 そう問いかけると、並んで歩いていた彼にちらりと視線を向けられた。小さく溜息をつかれる。これで二度目だ。

「またその話か」
「まだ二度目だ。気になるんだ、答えてくれてもいいだろう?答えられない理由があるわけじゃないならな」
「……どうでもいいだろう、そんなこと。それとも置いていってほしかったのか、この見知らぬ荒廃した世界に」

 誰もそんなことは言っていない。そう言い返すと、ならいいだろうと一言で切り捨てられた。確かに置いていかれたかったわけではないのだ、待っていてくれたことには一応感謝している。だがどうしても気になることだけに、この話題を忘れることもできない。
 今度こそは聞いてやろう。どうしてなんだと、以前よりもしつこく食い下がった。


「全く…お前はもう少し話のわかる奴だと思っていたが。なら答えてやる、そんなもの、何となくだ。これで満足か?」
「……及第点以下だな。僕こそお前はもっと話のわかる男だと思っていたよ、ヘルカイザー」
「そうか、それは光栄だな」


 軽くあしらうような言葉に、エドはむっと眉を寄せた。こうやってムキになるところは、恐らく彼に言わせてみれば「まだまだ子供」なのだろう。それでもいいと思った。エドはどうしても、この男の行動が―――この男のことが気になって仕方がなかった。


「ヘルカイザー」
「……今回はしつこいな」
「僕は子供、だからな。大人は子供の疑問に答えてくれるものだろう?」
「………子供の権力をよくわかっているようだ」
「お前も大人の役割を理解しているようじゃないか」


 頭が痛いとでも言いたげに、亮は頭をおさえた。エドはにやりと笑い、さあ答えてくれ、と彼の言葉を促す。亮は深く溜息をついて、ようやくエドの疑問の答えを吐き出した。


「人を助けるのに、お前は理由を求めるのか?……俺がお前を待ったのはそう言うことだ」


 ようやく吐き出された亮の答えは、実に単純なものだった。
 それだけに、エドにとっては意外だった。
 ―――リスペクトの心を失った亮。実弟に対しても痛みを伴うデュエルを容赦なく行った彼は、冷徹な人間になったのだとばかり思っていた。それを亮は、なんとも当たり前の、単純な理由で、自分を待っていたのだ。

「……ヘルカイザー、お前」
「くだらない雑談は終わりだ。早く行くぞ」

 亮はエドの言葉を振り切るように歩調を速めた。エドはアタッシュケースを持ち直し、慌ててその後ろを追いかけた。


「おい!待てよヘル、……亮!」


 エドは亮の隣に追いつくと、彼の横顔を見上げる。遠くを見据える厳しい瞳が、今はどこかゆるんでいるように錯覚した。
 運命とは皮肉なものだ。
 きっとこのことに気がついたのは、ずっと遠くにいたはずの自分がはじめてなのだろう。



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