Unlimited

about / main / memo / mail







「亮、何か兄さんについて手がかりはあった?」


 明日香の問いかけに、遠くを照らす灯台の光をを見つめる友人は首を振って答えた。そう、と溜息混じりに呟き、亮の隣に並び立つ。夜、ここに来て闇のような海を、闇を照らす灯台の光を眺めるのは、最早彼女たちにとって日課となっていた。まるでその先に、捜し求めている人物を見ているかのように。

 明日香の兄が失踪してから、もうどれほど時間が経っただろうか。明日香が高等部へ進学する以前、亮たちが一年生の時、彼は消えてしまった。その報せを聞いたのは亮からだった。兄を通じて知り合っていた亮は、ひどく追い詰められたような様子だった。俺のせいで吹雪が。彼は、そうつぶやいた。
 彼の失踪は決して亮のせいではない。彼と喧嘩をしたと言うわけでもなければ、何か吹雪の様子がおかしかったわけでもない。ただその日まで隣に居た彼が、忽然と姿を消した。それだけの話だったのだ。すまない明日香、そう声を絞り出す彼に、逆に明日香が謝罪したい気持ちになるほどだった。

「……吹雪はなんとしても捜し出す。そのために、全力を尽くす。卒業するまでに見つからなかったとしても、俺は吹雪をずっと捜し続けるつもりだ」
「ありがとう、亮。だけど……あなただってプロを目指しているんでしょう?とてもそんな時間は……」
「プロなんてどうだっていい。……プロは俺の夢だが……吹雪には代えられないだろう」

 遠くを見据えながら、亮は静かに呟いた。明日香は身動き一つしない彼の横顔をちらりと見上げる。闇をうつした瞳は、どこまでも真っ直ぐ前を見ていた。遠く遠く、水平線の彼方を。ここにはない何かを、ここには居ない誰かを見ている。そうして、ふと思った。ああ、彼はきっと、自分以上に吹雪のことをおもっているのだと。
 肉親に向ける情とは違う、けれど友人に向ける情とも違う。それが何であるか明日香にはわからなかったが、ただそうであると言うことだけは、なんとなく察せられた。

「……ねえ、亮?」
「何だ?」
「その……ありがとう。兄さんのこと」
「いや……俺は何もしていない」
「そんなことないわ。……本当にありがとう」

 そこで始めて、亮は明日香を見た。にっこりと笑ってみせれば、不思議そうに小首を傾げられる。気にしないで、と呟く明日香の想いを、亮は知らない。戻ってきたら真っ先に亮に謝らせよう、そう思いながら、どこかに居るであろう兄を思い浮かべた。



もどる



「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -