Unlimited

about / main / memo / mail








 十代が戻ってきたと、教えてくれたのは翔だった。
 アニキが、アニキが戻ってきた!ぜいぜい息を切らしながら、必死に語りかけてくる翔の瞳は、涙が今にも零れ落ちそうだった。絶対に戻ってくる、そう信じてはいても、やはりどこかに「もしかしたら」と言う思いはあった。吹雪さんはほとんど諦めかけていたし、明日香も信じて待つことに疲れているようにも見えた。
 エドやカイザーは「あの男はそれくらいじゃくたばらない」と、ある種確信のようなものを持っていた。
 けれど俺は翔と同じで、帰ってきてくれると信じてはいても、「もしかしたら」という不安が渦巻いていた。翔に話を聞いた限りだと、十代は「大人になるための旅に出る」と言い残して消えたらしい。それがどういう意味なのか俺には理解できなかったが、絶対に帰ってくるという約束の言葉であったのは確かだ。
 口約束ほど不確かなものはない。十代を疑うわけではなかったが、状況が状況だ。渦巻く不安に食欲も沸かない日が続いた。だけれど、けど、十代は、戻ってきたのだ。戻ってきてくれた。俺は食事を済ませ、レッド寮の自室に居るという十代に会いに行った。
 鍵のかかっていない部屋を、ノックもせず声をかけることもせず乱暴に開けば、床に座り込んでカードを眺めていた十代が顔をあげ、視線が絡んだ。


「何だよ、ヨハンか。声ぐらいかけて入れよ」
「それどころじゃ、なかったんだよ。……ほんとに十代だよな?マジだよな?」
「ほんとに俺だって。変なこと言うなあ」
「……変じゃないだろ!お前、おま、俺たちがどんだけ、おれが」


 今までの思いを必死に伝えようとするが、言葉にならない。心配していたし、不安もあった。それを、こいつは当たり前のような顔で笑って、なんでもなかったかのように、平然としていて。何か俺たちばかり、バカみたいじゃないのか。理不尽な怒りさえ覚える。
 だけど十代はやっぱりなんでもないように、微笑む。

「心配かけて悪かったって。でもちゃんと、帰ってきただろ?」
「じゅうだ、」
「ほら、これ……お前が俺に預けてくれたデッキ。返すよ」
 そう言ってケースの中から取り出されたのは、俺の大切なデッキ。ふわりとどこからともなくルビーが姿を現し、俺の足元を嬉しそうに駆け回った。笑いかけてやると、ルビーは満足そうに一声鳴いて、またふっと姿を消した。
 共に行けないなら、せめてデッキだけでも。そう思って預けたものだった。それも返したかったしな、と十代は言って、俺の手にデッキを乗せた。だけれど俺は、いまいち手放しで喜べない。
 宝玉獣たちが戻ってきてくれたのは嬉しい。だが、十代のことを考えると、喜んでいる場合でもないだろう。少し、十代の様子がおかしい気がする。戻ってきたと言うのに、真っ先にやったことと言えば飯を食べること。せっかく再会できたと言うのに当の本人は感慨も何もあったものではない。


「……ヨハン?どうした、帰らなくていいのか?」
「帰っ……お前なあ!せっかくまた会えたのに、その言い草はなんだよ!」
「な、何だよ、何で怒ってんだよ。別に……戻ってきて、これからまた会えるんだから、いいだろ」
「はあ……!?」

 何だそれは。思わず頭に血が上り、俺は屈み込むと、十代の胸倉を掴んでいた。カードがばらばらと床に散らばるのも気にしない。十代を至近距離から睨みつけるが、十代は相変わらず平素を保った瞳で、まっすぐ俺を見つめてくる。その瞳には、揺らぎはない。

 何なんだ、こいつ。何でこんなに、普通でいられるんだ。

 再会を喜ぶだとか、そういうことはないのだろうか。いや、自ら帰ってくると宣言していた以上、絶対に戻ってこれる自信と言うものはあったのかもしれない。だからと言って、こんなに普通にしているものなのか。異世界からようやく帰ってこれたのに。
 それどころか、「別に」だとか、「また会えるんだからいいだろ」などとはどの口が言うのか。
 どれほど、心配したと、思っているのだろう。

「お前……なんでそんな、変わったんだよ。なんでそんな、……そんなこと、言うんだ」
「……翔に聞いてないのか?俺は大人になるための旅に出てた。だから戻ってきた俺は、もう、子供じゃない」
「子供とか大人とか、そういう話じゃない!」
「じゃあどういう話なんだ」

 驚くほど冷たい声が鼓膜を震わせた。
 俺の知ってる十代は、もっと明るく笑う奴だった。毎日のようにデュエルして、肩を組んで笑いあったり。いつでも明るくて、まっすぐで。十代は、こんなに大人びた表情をしただろうか。こんなに冷めた瞳を、鋭利な瞳を、していただろうか。
 ぞくり、と背筋を何かが駆け抜ける。
 俺の知ってる十代じゃない。十代なのに、十代じゃない。こいつはほんとうに、変わったのだと、認識させられる。

「……ごめん」
「ヨハン?何謝ってんだ?」
「何でもいいだろ。……なんでも」

 ぎゅう、と十代を抱きしめる。肩口に顔をうずめる。くすぐってえよ、と十代がかすかに笑った。ああ、やっぱり十代だ、と思う。だけれど一度違和感を覚えてしまえば、それはもう拭えない。十代は変わった。成長したのだ。ただその変化は、俺にとって受け入れがたい。今はそれを受け入れられない。
 だけどこいつは、ずっと十代なのだ。どんなに変わっても、こいつは十代だ。俺の好きな、遊城十代。

「……十代、俺のこと、好きか?」
「なんだよ、いきなり。……一朝一夕で嫌いになるわけないだろ?」
「……うん、そうだな。俺も……俺もだよ」

 照れもせず、詰まりもせずにさらりと答える十代。ああ、やっぱり違うんだな、と思った。それでも俺は戸惑うばかりで、十代を嫌いにはなれなかった。あんな態度を取っていても、根本は十代だ。そう思うと憎めなかった。やっぱり俺は十代のことが好きだった。
 大人になった十代。変わってしまった十代。だけど俺は変われないのだと思った。十代はやっぱり十代で、こいつは俺の心を占めてしまっているのだ。






―――――――
なんかダメなヨハン。
実はこれ、ぺろっと設定間違えてます。



もどる




「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -