どこか安堵に近い感情――それでいて妙な悔しさを覚えるのは、いまの彼の目の前に居るのが自分ではないからなのだろうか。決して短くない期間を共に過ごしたと言うのに、あんな彼は見たことがない。
■笑って、笑って
(吹亮)
「笑えないよ」
目の前の青年は少し寂しそうに呟いた。切れ長の瞳は遥か彼方を見つめて、細められる。黒いコートの裾がばさばさと風にはためいた。
「忘れてしまった、あの時と同じように笑う方法なんて」
すまない、と悲しそうな微笑み。心臓が締め付けられるように痛い。ボクはたまらず彼の体を抱き寄せた。いきなりどうしたんだと困ったような顔をする彼を、きつくきつく、抱きしめる。これ以上彼が遠くへ行ってしまわないように。
「……よかった、のに」
「吹雪…?」
「ボクは、あの時と同じじゃなくて、よかったのに」
今きみが、心から笑ってくれたならそれで。ボクの言葉に、ヘルカイザーはしずかに首を振った。彼はそれ以上何も語ってはくれなかった。
――――――
某守護月天のアレを聴きながら
吹亮ソングだと勝手にイメージしてます…
■遊十
「じゅうだい、さん」
は、と零された吐息は熱い。熱に浮された青い瞳は艶を帯びていて、不覚にも心臓の鼓動が速くなった。ゆっくりと頬を撫でる手は優しい――と言うより、おそるおそる、触れているようだ。
「十代さん……」
掠れた声で囁かれ、なにかがぞくりと背筋を駆け抜けた。軽く目をつむると、柔らかい感触が遠慮がちに押し当てられる。かさついた唇だった。
触れるだけの子供じみたキスで気が済んだのか、唇はゆっくりと離れていった。目を開けると、そこには困り果てた様子の青年の表情。
――もっと困らせてやりたくなるような顔だった。
「なあ、遊星」
「は、はい…?」
「オレと、もっとすごいことしたくねぇ?」
「え、」
「こんなちゃっちいキスよりもっと先のことだよ」
首に腕を回しながら微笑んでやると、遊星はしばしの逡巡の後、かああっと色黒の頬を赤く染めた。わかりやすい、そして初な反応だ。
(……先はなげぇなー……)
―――――――
色々したいから頑張るけどウブなヘタレ遊星×無駄にフェロモン放出兄十代
タイトルは思いつきませんでしt