R18 *売り、高校生。微妙に不良系?






「おう!また明日なー」


俺はいつも通りに明るく挨拶を交わすと、バイト先のコンビニへと急いだ。
秋の深まる十月、爽やかな風が吹き抜ける季節とは裏腹に、俺の状況は正直他人から貶されても仕方ないところまで落ち切っていた。けど全然気にしない。気にしても現状が変わるわけではないし、何より…


「今日は飯何もらおうかなー」


俺は今、夕飯のコンビニ弁当のことで頭がいっぱいだった。







Take Talk Telling








「いらっしゃいませ!」


「司馬くんはいつも愛想良くていいわね。おばさんも思わず笑顔になるわぁ〜」


「えへへ…そういっていただけると嬉しいっす」


毎週俺の働く時間帯に合わせて買い物しに来てくれる常連のおばさんが、今日も同じように買い物カゴを俺のレジへと差し出してきた。こうして親身に話しかけてくれるのは、俺と同い年の高校生の息子に面影を重ねてしまうのだとか。


「もうすぐ修学旅行だって息子が言ってたんだけど、司馬くんもそんな時期かしら?」


カゴの中の商品を取り出しバーコードを読み取る横で、俺は彼女からの質問に答える。


「はい。俺も来週修学旅行なんですよ。」


嘘だ。

俺には修学旅行に行けるだけの貯金は無い。積立にも参加していないから、来週は一人大人しく留守番を決め込む予定だった。


「じゃあ思う存分楽しんでくるのよ!いいわねぇ…京都とか私も久しぶりに足を運びたいわ…」


おばさんが想像を繰り広げている間に会計は終わった。お釣りを渡す際に「良い修学旅行を」と優しく微笑みかけられて、俺も満面の笑みを返す。「ありがとうございましたー」と言い放ち、コンビニの出口をじっと見つめると、


(いつか俺も旅行とかしてみたいなー…)


少しの欲が頭の中を駆け巡った。けれど当分…いや下手すれば一生叶えることの出来ない願いに、ホットスナックの揚げ物を袋から出しながら一人苦笑した。






俺、司馬ケイタは現在高校2年の普通の男だ。部活は入っておらず帰宅部。アルバイトは毎日コンビニで夕方から夜まで。こんな状況からもわかるように、うちには金が無い。むしろあるのは借金ばかりだ。
よくある話ってやつで、父親の作った借金のせいで俺の家族は滅茶苦茶になった。今は兄弟バラバラに暮らしたまま、俺が母親と二人暮らしでちびちびと借金を返しているところだ。ちなみに俺はコンビニのバイトだけじゃ借金を返せるだけの金を貰えないのは重々承知している。これは俺達二人が表向き健全に過ごして行くための生活費だ。そんで、借金を返すための金は別に稼いでいる。どうやって?


ああ、簡単な話さ。
俺は男相手に週3で体を売っている。


借金取りがうちに来たのは俺が中学2年のとき。そのとき俺だけ無理やり連れ出されて、一晩男にまわされた。その日はショックで何も考えられなかったけれど、帰ってきて母親が泣き叫びながら俺を抱きしめるのを見て、俺が何をされたかは俺だけの秘密にしようと思った。
相手の借金取りも俺がまさか普通の状態で居られるとは思ってなかったらしく、まわされた次の日に「高校は通いたいんで、夜と土日に売るって形じゃだめっすか?」なんて俺が話しかけたら、逆に大笑いされた。以来本当なら高校を辞めて金を返していかなきゃいけないところを見逃してもらっている。


(バイト仲間とか…俺がやってること知ったら縁切られるだろうなー)


そうして体を売ってもう三年が経つ。唯一父親に感謝したいのは俺の顔のつくりが良かったことだ。おかげで固定客も付いたし、なにより金の弾みが普通の人と違う。
客曰く、綺麗な顔してる俺があんあん喘いでるのを見ると、支配欲が満たされるそうだ。この意見を聞いてから、受けに回るときはなるべく俺の悦い表情を客に見せてあげようと思うようになり、おかげでまた稼げるってなサイクルになっていた。







「お疲れ様でしたー、先に失礼します!」


金曜日…俺はいつものようにアルバイトを早めに抜け、一人颯爽と家に向かう。二人暮らしのアパートはぼろくて頼りないけど、それでも俺の大切な住処だった。


「ただいまーって母さん靴投げっぱなしは良くないっす!」

「ごめんケイちゃん許して〜母さんもう酒飲めないぃー…」


俺の母親は夕方から翌朝まで水商売、昼間は契約社員と怒涛のごとく働いている人で、日の睡眠時間は3時間くらいしかない。その中でも今日は翌日休みという大切な日で、こんな日は会社の人の付き合いで酒に潰れて帰ってくるのがいつものことだった。

玄関の靴を揃え居間に入ると、冬から出しっぱなしの炬燵に突っ伏した母さんが「うげー」と酔いに襲われていた。俺は戸棚から薬を取り出すと、コップ一杯の水と一緒に母さんの横へと置く。


「もう若くないんだから無理しちゃだめだよ、母さん。薬置いとくね。」

「ありあと〜うぅ…」


ぐだぐだな母を横目に俺はすぐさま私服へと着替え始めた。制服をハンガーにかけ、軽く埃を払うとドアの僅かな隙間に引っ掛ける。Tシャツにジーンズとラフな格好になると、俺は携帯とカードを一枚だけ持って再び家を出た。そう、金曜の夜、俺は決まって体を売る。店は借金取り繋がりでやってるところで、俺は未成年ながらも年齢を突っ込まれることなく働いていた。

店に向かう行きの道、電車に乗りながらぼんやりと修学旅行のことを考えた。

今日も仲の良い友人が


「えええええっ?!ケイタ修学旅行こねぇの?!ありえないんすけど!!」

「ごめんな〜俺大事な用事があってさ〜」

「俺達との修学旅行より大事な用事ってなによ、この浮気者!!!」

「すまんすまん」


俺と一緒に修学旅行に行けないことにがっくりしていた。見てもわかるほどの落胆ぶりを思い出し、俺は微笑する。
夜に都内へ出る電車の車内はガラリとしていて、ポケットにしまった携帯を取り出しながら周囲を見回した。

線路を走る音だけが静かに重々しく俺の耳に響く。


(どうしてこんなことになっちゃったんだかなぁ…)


中2のあの日まで、俺は男とセックスが出来るなんて知らなかった。そもそも女の人とやったこともないのに、そこまで想像出来るわけが無い。無理やり体を開かれて、四つん這いになってる俺の太ももに相手の太ももが触れた瞬間、(あ、え…俺…、犯さ、れ、た?)なんて馬鹿みたいに一つのことがぐるぐると頭を占拠したのを覚えてる。

尻の中にある物を感じるよりも、俺は他人の肌が触れることが気持ち悪くてその日ずっと吐きながら、口からも尻穴からも色んな液体が垂れ流しのまま犯され続けた。


それが今ではすっかり男とのセックスを知っているわけで、どうすれば自分が気持ちよくなれるか、相手を気持ちよくさせられるかなんてことは誰よりも俺自身が知っていた。俺は既にアナルで感じることが出来るようになっていて、相手の突きに応じて自分の射精のタイミングを変えることも朝飯前になっている。
そう、相手は俺を支配している錯覚に陥ってるだけで、実際は俺が全部管理出来るくらいに技術は否応なしに上達した。フェラだけで何度も相手をイかせる自信もあるし、どんな体位でも満足させられると思う。

なのに、俺の客は俺とのセックスの後、口を揃えてこう言うんだ。


「君とのセックスは本当に欲を満たすだけのものだよね。愛が無い。」


何を勘違いしてるんだ、この客は、といつも頭を殴ってやりたくなるけれど。
でも彼らが言いたくなる気持ちもわからなくはないんだ。俺の愛撫や感じ方には相手を考えてる余裕とか、相手の為とか、そういう気持ちは一切ない。ただ、「気持ち良い」の一言しか詰まってない。客は俺からの愛を求める場合が多い。でも俺は提供できない。

だって、俺は金抜きのセックスなんて一度もしたことがないんだ。お互いが好きでするセックスを、俺は経験したことがない。それを同じように体を売ってる奴に話したら、


「お前…俺達ですらそういうの一度は経験したことあるぞ?」


って言われて首を傾げられた。そのとき一瞬だけ…本当に一瞬だけ羨ましいなって感覚が過ぎ去ったのは…確かだと思う。


(好きな人とセックスしたら……気持ち良い以外になんかあるのかな)


最近よく、そんなことを考える。














「はっ…はっ…んぁ…そこ、…もっと突いてくれっ…」

パンッ、パンッと俺の尻と客の肌がぶつかる音が生々しく響く。俺の中は相手の肉棒を咥えて離さないといった風にぎゅうぎゅうに吸いついていた。
前立腺をゴリリと押し上げられて、背中が思わず反りかえる。カエルのようにM字に割られた足を震わせ、俺は必死に迫りくる快感を逃がそうと両手でシーツを掴んでいた。

ちなみに今の俺の格好はコスプレプレイということで学校の制服を着ている。もちろん普段の制服ではなく店で用意されたものだ。下げられたズボンとパンツは右足に頼りなく引っかかり、俺の体がゆすられる度に揺れる。上半身はブレザーが程良く脱がされた程度で、鎖骨が見えるくらいだ。

相手は俺の痴態をあますとこ無く見収めようと、舐めるように俺の体を見下ろしている。時折、「ここがいいのか?あ?この淫乱野郎!」と怒鳴られるけど、それもプレイの一環。彼にしてみれば俺は先生に逆らってばかりの不良生徒らしい。そんな不良が自分の手で快楽に落ちていく…なんてシチュエーションがいいんだとか。


「てめぇ…っん、俺にこんなことしてっ、あっ…ただで…すむとおも…うなぁあっ!ひっ」

「ねだったり反発したり忙しいやつだ、な!」

グリッ!

「アッ、あんっ、ダメだくそ…気持ち、いいぜっ…ちくしょう!イく、っイっちまうよ…っッあっ、―――――っッ!!!」


バシンと前立腺を一気に突かれ、俺のチンコから精液がはじけ飛ぶ。
勢いよく放たれた白濁は俺の腹を汚した。彼も一緒にイったみたいで、腹の中に温かさが広がる。もちろんコンドームはつけているけれど、それでもゴム越しに温度は伝わった。全部を俺の中に出したいのか、緩く前後に動くと、俺の体も合わせてビクビクと震えた。


(不良って…こんな感じでよかったのか?…)


俺の考える不良像が果たして彼の考える不良像と重なっているのか、疑問ではあったが精一杯やったので勘弁してほしい。
120分もそろそろ終わりに近づいているので、俺は彼がペニスを引き抜いたのを確認して、シャワー室へと向かった。大抵の客は事を終えた後、少し俺と話をしたいという人が多いので、なるべく早く体を綺麗にする。

かかる水滴の中、やはりぼんやりと思ったのは…


(汚いんだろうねぇ……)


もし本当に俺のことを好きになってくれる人が出来たとして。こんな体を売り続けている自分と、気持ちを重ねたセックスをしようと相手は思うだろうか。俺がまっとうに生きてる人間だったとして、俺自身がセックスしようと思えなかった。体を売っていたことがバレたら…頭がおかしい扱いされて終わりになるのが妥当だろう。
それでも、いつか俺のことを好きと言ってくれて、
俺の汚れきった体も抱きしめてくれる人がいたら。


(いいなぁ…それってきっと幸せだろうな…)


俺はこの日も幸せな未来を夢見て、仕事に没頭したのだった。





仕事の帰り道、いつも金曜土曜を跨ぐ場合は朝帰りなのだけれど、朝陽が昇る中歩くのは俺にとって一番辛い。綺麗に染まっていく空にぽつんと一人存在していることが、なぜだか無性に悲しくなる。


「あーあ、今日もお疲れ様でした、俺〜」


自分自身にお礼を言うと公園のベンチに腰掛け、一休みした。都会と言っても誰もいないだけで空気が澄んでいるように思える。肺いっぱいに吸い込んだ空気は、いつしか口から溶けていく。


あ、だめだ。泣きたい。


喉から震えた嗚咽が出そうになって、俺は折り畳むように顔を膝へと埋めた。両腕で頭を抱え、陽の光から目線を反らす。叫び出したい衝動と、過去の映像が目まぐるしく己の中を渦巻いている。本当は毎日逃げ出したいと思っているんだ、俺は。でも母さんを置いていけない。

苦しい。
どうしよう。誰か…



「……誰か……代わってくれないかな…っ…、っ」


代わりがいないことなんて、自分が一番知ってるさ。
食事が出来るだけまし、母と暮らせてるだけまし。でもそうやって比較してないと自分を保っていられない。学校なんか特にそうだ。みんな俺より良い境遇で、綺麗で、輝いてて…手が届かなくて吐きそうになる。

伸ばしても届かない世界が横にあるから、余計に自分の世界が濃くその景色を見せつける。

(俺は良い方なんだ…だから大丈夫…)

胃がぎゅうと締めつけられる。腹を抱えてうずくまると、俺は自分が冷静になれるまでじっとしていた。











続く?



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司馬くんは普通の子。

2011/10/15

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