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管理人うにこ

クールで鈍感×おバカで健気

俺はいつも同じ電車に乗る会社員のお兄さんが好きだ。
名前は知らない。ここ一年、平日朝には必ず同じ時間、同じ場所で顔を合わせる。
向こうは俺に気付いてない。でも俺はずっとお兄さんに心を寄せている。
理由なんかない。気付けば視線がお兄さんを追っていて、それはどうしようもなかった。

その日は夕方から地面を覆い隠すほどのどしゃ降りになった。俺はたまたま帰りの改札口でお兄さんと鉢合わせする。がしかし向こうは俺のことに目もくれず、空を見上げていた。

おい、俺。これはもしやチャンスなんじゃないか?!

単純な思考回路を持ち合わせている俺は、この折り畳み傘を渡せば自分がびしょぬれになるなんてこと、一切考えてなかった。チャンス、機会、これを逃せば次はいつくるかわからない。でも逆にここで話しかけてしまえば、傘を返してもらうときに「ところでお名前は〜」なんて聞いてくれるかもしれない。

考えれば考えるほど妄想が走ってしょうがないのだが、とにかく鞄に入れていた傘を取り出すと、すぐさまお兄さんの目の前に差し出した。

「ん。」

「?」

お兄さんは怪訝な目で俺を見る。うわ、やめてくれ…好きな人にそんな目で見られるとダメージでかいんだって…恥ずかしさでこれ以上喋れないし、うう…でもだめだ!ここで諦めたら…俺は男になれない!意気込みは語調に現れ少し怒ったようなものになってしまった。

「だから…この傘使えば濡れないだろ?」

「…それは君が俺にこの傘を貸してくれるってことか?」

初めて聞いたお兄さんの声に、俺は嬉しさと恥ずかしさと、満杯の感情で頭がショートしそうになる。必死に首を上下に振り肯定の意を示すと、


「ありがとな、青年。」

笑いはしなかったものの、「ありがとう」の一言に俺は胸がきゅうっと締めつけられた。あー…俺恋してんなぁ…ってしみじみと実感しているうちに、

お兄さんはいなくなっていた。


「……早くね?」

お兄さんと初めて会話を交わせたことの嬉しさと、すぐいなくなってしまった切なさに涙が目尻に溜まった。けれど俺ははたと動きをとめ、

「あれ…傘をかしたとなると…俺ずぶ濡れ確定?」

今さら事実に気付いて、結局家に帰ったあと家族に怒鳴られるわ、顔がにやけてキモいだの言われたい放題だったのだけれど、寝る前にお兄さんの声を思い出すだけで頬が緩んでしまうのだった。


続く。


2011/07/30 12:33



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