いよさんから


―――――偶には旅の事やバトルの事を忘れて、ゆっくりするのも一つだと思うのです。






「よっと、とうちゃーく!んん、この辺りだったら人通りも少ないし、ゆっくり出来そうじゃない?レッド。」
「・・・・ん。この辺りにしよう、ナマエ。」
「じゃ、出ておいでグレイシア。後出せるのは、ウィンディとバンギラスとカイリュ―ぐらいかな。この辺りに水辺は無いし、ラプラスは出してあげられなくてごめんね。」

コガネシティとエンジュシティの間にある自然公園。その名の通り自然にあふれている場所で、大型ポケモンを出した所で困るような事態にはならない場所。
折角だから、コガネシティから少し遠出をしてここで今日は一日ゆっくりしようと言う事をレッドと決めて、私達は来ていたのだけど。

辺りにあるのは平原だけ。だから、水を必要とするラプラスは外に出してあげる事が出来ない。なので私はラプラスのボールを手の中で転がしながら、そう謝罪の言葉を口にした。
すると、ラプラスの入っているボールはころころと揺れて。ラプラスの物分かりの良さに思わず申し訳なるのを感じつつ、私はラプラスの入ったボールを腰のベルトに付けたのだった。

「よしっ!とりあえず、この辺りにレジャーマットを広げて、と。ほら、おいで?ピカ、グレイシア。」
「ピカチュ!」「キュオン!」
「あははは、くすぐったいよ二人とも。ふわっ?!ピカチュウまで?!」
「ピカピー!ピカチュ!」

大きな木の下に持って来たレジャーマットを広げて、その上にポケモンセンターの一階の調理場で作らせてもらったお弁当が入った籠を置いて、私がマットの上に座った時だった。
ピカとグレイシアに声をかけただけだったのに、何故かレッドのピカチュウまで私の胸元に飛び込んできて。あれ、どうしてこんなことになってるんだろう。と思いつつ、ごろごろと私の胸元で楽しそうなピカチュウを引き離す事も出来なくて。

私はそのまま楽しそうなピカチュウやピカ、グレイシアの頭をそれぞれ撫でていたのだけど。
じいいいぃっと言わないばかりに向けられる視線に私は思わず首をかしげて、その視線の先を見たのだ。するとそこには、何故かずっと私を見ているレッドがいて。あれ?ピカチュウを取った事、怒られてる?と思いつつ、レッドに声をかけたのだ。

「どうかしたの?レッド。あ、もしかしてピカチュウを返して欲しいとか?」
「・・・違う。ピカチュウ達だけ、ずるい。」
「・・・・・・・。・・・・はい?え、え・・・レッドさん?・・・・・っ!!?」
「お昼になったら起こして、ナマエ。」
「!??!」

私の膝の上で丸くなっていたピカをレッドはどけたかと思うと、代わりに自分の頭を私の膝の上に置いて。これって、俗に言う膝枕じゃ・・・!と思った時には、レッドから静かな寝息が聞こえてきて。
ぼふんっと一気に顔に熱が集まるのを感じながら、私は声にならない声を上げるし出来なかった。

「〜〜〜〜〜〜っ!!ピ、ピカ・・・た、助けて・・・!」
「・・・・・。・・・・ピッカァ。ピカ、ピカピカチュ?」
「キュオオン。キュオ、キュオオン!」
「ピカチュ!ピカ、ピッピカピー!」
「!?え、え・・・・ちょっ、ピカ?!それにグレイシア達まで・・・!!」

とにかくこの状況を何とかしないと、と思ってピカ達に声をかけたと言うのに。ピカはこの状況を何とかするどころか、グレイシアやピカチュウ、バンギラスにウィンディにカイリューと言った面々を連れてどこかへと行ってしまって。
あれ?私、手持ちの子たちに空気読まれた?と思ったけれど、こんな時に空気を呼んで欲しくなくて。というか、助けて欲しかったのだけど・・・!!と思いながら、がっくりと肩を落とした。

本音を言えば、凄くこの状況から抜け出したい。抜け出したいけれど、レッドの幸せそうな寝顔を見てしまえばそう言う事も言えない訳で。
さわやかな風が吹き抜けて行くのを感じながら、私はレッドの髪を梳いていた。(うわ、さらさら・・・。)

「本当にレッドは自由気ままと言うか、何と言うか・・・・。ピカ達にまで気を使わせる羽目にもなるし・・・。・・・・少しは、私の方の気持ちも察して欲しいんだからね?いっつもいっぱいいっぱいなのに、さ・・・。」
「・・・・・・。」
「・・・・っは!レッドの方が、何気に肌艶が良いかも・・・・。うう・・・女として負けるって、どう言う事・・・。」

レッドにはお昼になったら起こして、と言われているけど、私だってレッドがこの状況から動いてくれない限り暇な訳で。(ピカ達は私とレッドに気を使って、どっかに行っちゃうし。)
私はじいっとレッドの顔を見つめながら、新たに発見してしまった事にがっくりと肩を落としていた。(いや、だって・・・男のレッドに色々な面で負けるって、どう言う事・・・。)

そしてそのままじいっとレッドを見つめていたのだけど、やっぱりそれでも暇を持て余すと言うか。レッドに対する悪戯心がむくむくとわき上がるのを感じて、私はこっそりとレッドがまだ寝ているかを確認していた。
(いや、これをするには勇気がいると言うか、レッドが起きてたら起きてたで恥ずかしすぎると言うか・・・!!)

「・・・レッド、寝てる・・・よね・・・?」
「・・・・ん・・・・ぅ・・・・。」
「・・・・・・。・・・・起きちゃ、やだ・・・よ・・・?」

起きていたら、恥ずかしすぎて私が死ぬ。そんな事を思うぐらいなら、最初からしなければいいと思うかもしれないけれど、私だって浮かび上がった悪戯心をそのままにしておきたくない訳で。
私は何度かちらちらとレッドが寝ているかどうかを確認した後、顔をゆっくりと近づけて、レッドの頬に唇を落とした。

それはただ触れるだけのものだったけれど、自分がしてしまった事を改めて思い知った私は、一気にぼんっと顔に熱が集まるのを感じた。(うわあああ、今さらだけど、何してんの私っ・・・・!!)
そしてそのまま気をそらそうと、背後にあった大きな木に背を持たれ掛けさせて。必死にさっきの事を忘れようとしていたのだけど、徐々に襲い掛かる眠気に私はそのまま意識を手放していた。










「〜〜〜〜〜っ!・・・・あれは、不意打ち・・・だ。」

ナマエがすやすやと寝始めてすぐ、彼女の膝で眠っていたはずのレッドはむくりと体を起こした。そして寝る為に邪魔だと思ってはずしていた帽子を深くかぶり直し、赤く染まった顔を隠す様に手を顔に当てていた。
実はレッドは寝る事は無く、ただ彼女の膝の上に頭を預けたまま目を閉じていただけなのだ。それは、単にナマエをからかうつもりだけだったのだ、が。

「ピカ?ピッピカチュ!ピカピー?」
「!・・・ピカチュウ。・・・散歩はもう良いのか?」
「ピカチュ!ピッピカ、ピカチュー?」
「・・・ナマエは、心臓に悪い・・・。・・・もう少し、自覚を持ってもらいたいな?ピカ。」
「ピカァ・・・・・。ピッピカチュ・・・・。」

気を利かして自分達から離れてどこかへと行っていたピカやピカチュウが戻って来た後、自分にすり寄って来るのを撫でつつ、レッドは顔に添えていた手を外した。
そして木にもたれ掛りながら眠るナマエに視線を移すと、まだ眠る彼女の頬に手を滑らしたのだった。

「―――・・・今度は、ちゃんと起きてる時にして欲しい、な・・・ナマエ。」
「ん・・・・ぅ・・・・?・・・・っ・・・そ、れ・・・私の、パン・・・!!」
「・・・・・。・・・・ナマエ。」

女としての色気の欠片も無い寝言に、レッドが思わず言葉を失くしてしまったのは言うまでも無く。だが、同じ様にため息をつくピカチュウ達とレッドは顔を見合わせると、ナマエに優しい笑顔を向けたのだった。













優しい陽だまりの中で、キミと過ごす一日。

(「・・・んぅ・・・ふわっ?!え、今何時?!」「・・・おはよう、ナマエ。よだれ、ついてるよ。」「!?えええええ!?うわっ・・・!!も、もしかして爆睡してた・・・?」「・・・ん。寝顔、見てた。」「!?」)




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いよさんのところの連載の番外編をリクエストしました。なんて素敵なレッドさんとヒロインちゃん…!文才があればこんな二人を書いてみたいものです…。私じゃ無理ですけどね\(^o^)/それでは、これからもよろしくお願いします^^