一方通行 | ナノ






今日も私は自分のムウマを出して、ジムでマツバさんのゲンガーやゴーストと戯れていた。そんな私を横でマツバさんが眺めているのも毎度のことである。マツバさんは見てるだけでいいんですか?と聞いたらユカリが楽しいなら良いよと言ってくれた。人が楽しんでいると自分も楽しいというやつだろうか、悲しいのと同じで。まあ、マツバさんとの関係は進展のしの字もなく、変わらず普通にのんびりと過ごしていた。


「ユカリ、スズネのこみちに行ったことはあるかい?」


「ないです。えーと…確かマツバさんが良く行く」


「最近はあまり行かないんだけれどね」


ふわりと笑ったマツバさんはちょっと悲しそうだった。なんでだろう。もしかしてスズネのこみちに特別な思い入れがあるのかもしれない。悲しい思い出とか。私がロストタワーに行ってきます、とお母さんに告げた時のお母さんの表情に、今のマツバさんの笑顔は似ていた。なんていうか、大切なものを失ったような。
そんなマツバさんに私はいたたまれなくなり、あまり不用意に聞くべきではないんだろうが、スズネのこみちに何か悲しい思い出でもあったんですか、と聞いた。


「悲しい…うん、悲しいのかもしれない。顔に出てたかい?」


「いつもより悲しそうな顔だったから」


「自分でも隠しているつもりだからみんなあまり気付かないんだけれどね。ユカリは分かるのか」


「私…。…あの、なんでもないです。続きをどうぞ」


思わずマツバさんのことを一番に見てますから、とか口走りそうになった。なんてことを言おうとした私!と自分を脳内でフルボッコ。少し疑問符を浮かべたマツバさんだけど、頷いて話を続けてくれた。


「ホウオウって知ってるかい」


「ああ…スズのとうに伝わる伝説のポケモン、ですよね」


「うん。ホウオウは許された者にしか会えないんだけれど、あるトレーナーが認められてホウオウを捕まえていったんだ」


「捕まえちゃったんですか!!凄いトレーナーだったんですね」


「そうだね…ジム戦でもすぐに負けてしまったよ」


何度か少しホウオウの話はマツバさんから聞いたことがあったけれど、もう捕まえられていたなんて。ホウオウの話をするマツバさんは凄く楽しそうだったから、余計にそのトレーナーさんがホウオウを捕まえたのに思うところがあったんだな、と思った。


「話がだいぶ逸れてしまったけど…もし良かったらスズネのこみちに行かないか。久しぶりに行ったら紅葉が綺麗だったから」


「紅葉…いいですね!でも私、エンジュのジムバッチ持ってないですよ」


「大丈夫だよ、僕がいるから関所は通れるさ」


微笑むマツバさんに、スズネのこみちはこのジムのすぐ脇にあるのだし、出かけるというよりかは軽い散歩のようだが、私は今までになく嬉しくなった。だって大好きなマツバさんと行けるのだ。どこだって構わない。しかも今回はマツバさんから誘ってくれたんだから、嬉しくないわけがない!
おかげで家に帰ったらお母さんに何にやけてるのユカリ、と言われてしまった。そんなににやけてないよ!…いや、やっぱりにやけてたかもしれない。




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