Metempsychosis
in Tales of the Abyss

事情説明

「……なるほど」

ジェイドから事情の説明を受けたヴァンは、納得したとばかりに頷いた。

その表情は微かに顰められ、重い。

「事情は分かった。確かに六神将は私の部下だが、彼等は大詠師派でもある。恐らく、大詠師モースの命令があったのだろう」
「なるほどねぇ。ヴァン謡将が呼び戻されたのも、マルクトからイオン様とリスティアータ様を奪い返せって事だったのかもな」
「或いはそうかもしれぬ」

その言葉にガイもまた頷き付け足すと、ヴァンは再び重い表情で肯定した。

「先程お前達を襲ったアッシュも六神将だが、奴が動いている事は私も知らなかった」

ピクリと、紅の名に微かに肩を揺らしたリスティアータには誰も気付かず、話は進んだ。

「じゃあ、兄さんは無関係だって言うの?」
「いや、部下の動きを把握していなかったという点では、無関係ではないな。だが、私は大詠師派ではない」

やや噛みつくようにティアが食い下がると、ヴァンは苦笑を滲ませてそれを否定した。

と、そんな彼から出た言葉に、アニスは目を大きく見開いて驚いた。

「初耳です、主席総長」
「六神将の長である為に大詠師派ととられがちだがな。それよりティア。お前こそ大詠師旗下の情報部に所属している筈。何故ここにいる?」

それもよくある事だと笑ったヴァンは、頃合と見てティアへと疑問を投げかける。

すると、ティアはぐっと奥歯を噛み締め、先程まで以上に硬質な声で答えた。

「モース様の命令で、あるものを捜索してるの。それ以上は言えない」
「第七譜石か?」
「──機密事項です」

『あるもの』

それを聞いてスッと目を細めたヴァンの問い掛けに、ティアは明確な答えをせずに流す。

しかし、それは聞く者が聞けば、何より分かりやすい『答え』でもあった。

と、会話を邪魔しないようにと気を使ってなのかは不明だが、静かにリスティアータの傍へと近付いたルークは、一つの質問を投げ掛ける。

あくまで小声で、二人の会話の邪魔をしないように。

「なぁ。『第七譜石』って何だ?」
「「「「「「…………」」」」」」

しかし、巧いこと会話の空白に放ってしまった言葉は、面白い位に皆の耳に届き、一部は呆れた、一部は困った視線をルークに向けた。

「…な、何だよ」
「箱入り過ぎるってのもなぁ…」「あら、知らない事を知ろうとするのはいい事よ?」

困った視線の主たるガイが頭を掻くと、ルークは更に気まずそうに言葉を詰まらせる。

そんなルークを誉めるリスティアータに、彼は照れたように頬を掻いた。

と、すっかり緩んでしまった雰囲気に一つ溜め息を吐くと、ティアが説明を始めた。

「始祖ユリアが2000年前に詠んだ預言の事よ。世界の未来史が詠まれているの」
「あまりに長大な預言なので、それが記された譜石も、山ほどの大きさの物が七つになったんです。それが様々な影響で破壊され、一部は空に見える譜石帯となり、一部は地表に落ちました」
「地表に落ちた譜石はマルクトとキムラスカで奪い合いになって、これが戦争の発端になったんですよ。譜石があれば、世界の未来を知る事が出来るから」
「…………」

フィエラは静かに手を握る。

と、立て続けの説明に苦労はしながらも、ルークはゆっくりとだが自分なりに理解したようだ。

「…それで、七番目の預言が書いてあるのが第七譜石なんだな」
「第七譜石はユリアが預言を詠んだ後、自ら隠したと言われています。故に、様々な勢力が第七譜石を探しているのですよ」
「それをティアが探してるのか?」
「さぁ、どうかしら……」

相も変わらず頑なな様子に、ヴァンは深い溜め息を吐く。

「まぁいい。とにかく、私はモース殿とは関係ない。六神将にも余計な事はせぬよう命令しておこう。効果の程は分からぬがな」

はっきりと断言はしたものの、彼の表情には彼らしからぬ自嘲が微かに浮かんでいた。

「ヴァン謡将、旅券の方は…」
「ああ。ファブレ公爵より、臨時の旅券を預かっている。念の為持ってきた予備も合わせれば、丁度人数分になろう」
ヴァンから手渡された旅券を受け取ったルークは、それを物珍しげにペラペラと裏表を見る。
「これで国境を越えられるんだな」
「ここで休んでから行くがいい。私は先に国境を越えて、船の手配をしておく」
「カイツール軍港で落ち合うって事ですね」
「そうだ。国境を越えて海沿いに歩けばすぐにある。道に迷うなよ」

最後の言葉は明らかにルークに向けて、からかい半分で言われていた。

それにはルークも気づき、少しむくれた顔をして「大丈夫だって!」と返す。

それに笑ったヴァンは、イオンとリスティアータに深く礼をすると、宿を去って行った。



執筆 20090108

プラウザバックでお戻り下さい。

Back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -