Metempsychosis
in Tales of the Abyss

猛獣使い

いつの間に、てか、どうやって移動したんだ、ってか、え、何やっちゃってんの、この人。

多少言動に差はありつつも、それが皆の共通した思いだった。

不慮の事とは言え、敵であるアリエッタとライガが倒れた事はこの上ない好機である。

そしていつ障気が復活するか分からない状況の今、アリエッタ(制御)を欠いたライガ(猛獣)を起こすなど、自殺行為と言っても過言ではない。

「起きて」

リスティアータが再びライガを揺する。

正確には擦ると言った方が正しいが。

いや、問題はそこではなく、

「リスティアータ様、あ」

ティアがおずおずと全員共通の思いを口にしようとした直後だった。

ぐったりと地に躯を倒していたライガが目を開け、のそりと起き上がったのは。

「あら、おはよう」

にっこりと微笑んだリスティアータは今の状況をどれだけ理解してくれているのだろうか。

何にせよ彼女を『助け』なければと、ルーク・ガイ・ティアは武器を手に一歩を踏み出す。

同時にルーク達に気付いたライガが猛然と牙を剥き、こちらも戦闘体勢になった。

と、

「あら」

ぺちり、と、何とも気の抜ける音を立ててリスティアータがライガの鼻を叩く。

「ダメよ」

次いで、めっ、と、子供を叱るように彼女なりに厳めしい顔をする。

当然ルーク達はそれの所為で彼女に危険がっと思い、一気に緊張感が増したのだが、

「クゥーン」

まるで、そうまるでそこら辺の飼い犬のように、ライガが鼻に掛かった情けない鳴き声と共に地に伏せたのを見て、身動きが取れなくなった。

「…………は?」

ルークが思わず間抜けた声を漏らしても、咎める者は誰もいない。

ある種、それ以上に間抜けた光景が眼前で今まさに繰り広げられているのだから。

「いい仔ね」

ふんわりと微笑むリスティアータ。

「クゥーン」

鼻に掛かった声で鳴くライガ。

ライガ・クイーンとの一件から、何となく予想していたジェイドだけがどっぷりと溜め息を吐いた。

「アリエッタを連れて、お帰りなさい」

あっさりと言ったリスティアータに、ライガは黙って彼女を見上げる。

その瞳に寂しさが宿っていたのだが、気付いたのはリスティアータだけで、その彼女自身もそれを受け入れる訳にはいかなかった。

「お帰りなさい。そして、アリエッタに伝えてちょうだい。もう私達を追い掛けて来ては駄目だって」

そう言ったリスティアータとライガが『見つめ合う』事暫し、折れたのはやはりと言うか、ライガだった。

再び起き上がるとアリエッタに近づき、彼女の服を噛んで持ち上げる。

そして背を向けて歩き出し、数回リスティアータを振り返りながらも、あっと言う間に姿を消した。

直後、流れる微妙な沈黙をどう取ったのか、皆を振り返ったリスティアータはにっこりと微笑む。

「あら、どうかしたの?」

再びジェイド吐いたどっぷりとした溜め息が、やけに響いた。



フーブラス川を越え、あと少しでカイツールという辺りに来た頃、ジェイドが歩みを止めた。

「少しよろしいですか?」

彼の呼び掛けに皆振り返る。

ルークが何ともダルそうに首を傾げた。

「…んだよ。もうすぐカイツールだろ。こんな所で何するんだっつーの」
「ティアの譜歌の件ですね」

イオンの言葉に頷いたジェイドは、静かにティアを見た。

「ええ。前々からおかしいとは思っていたんです。彼女の譜歌は、私の知っている譜歌とは違う。しかもイオン様によれば、これはユリアの譜歌だと言うではありませんか」
「はぁ?だから?」

ひたすら頭に疑問符が飛ぶルークに、ガイが分かりやすく説明する。

「ユリアの譜歌ってのは特別なんだよ。そもそも譜歌ってのは、譜術に於ける詠唱部分だけを使って旋律と組み合わせた術なんだ。ぶっちゃけ、譜術ほどの力はない」
「ところがユリアの譜歌は違います。彼女が残した譜歌は、譜術と同等の力を持つそうです」

分かりやすく言われたとは言え、小難しい説明にルークが思考を巡らせる横で、ティアが俯き加減だった顔を上げた。

「…私の譜歌は、確かにユリアの譜歌です」
「ユリアの譜歌は、譜と旋律だけでは意味を成さないのではありませんか?」
「譜に込められた意味と象徴を正しく理解し、旋律に乗せる時に隠された英知の地図を作る、だったか。一子相伝の技術みたいなものらしいな」

つらつらと続けたガイに、ティアの方が驚き、目を見張った。

「え…えぇ、その通りよ。よく知っているのね」
「昔、聞いた事があってね」
「……」

再びジェイドの目が細められたが、彼は今の疑問を優先する事にした。

「あなたは何故、ユリアの譜歌を詠う事が出来るのですか?誰から学んだのですか?」
「それは……」

やや矢継ぎ早な問い掛けに、少し視線を彷徨わせたティアの答えは、

「…私の一族が、ユリアの血を引いているから……だと言う話です。本当かどうかは知りません」
「ユリアの子孫…なるほど…」

それを聞いたジェイドがチラリとリスティアータを見る。

彼女は興味が無いと言わんばかりにクロを撫でていた。

「って事は、師匠もユリアの子孫かっ!?」
「…まぁ、そうだな」
「すっげぇ!さっすが俺の師匠!カッコイイぜ!」

どこか冷めた雰囲気を纏う面々に気づかないルークだけが嬉しそうに笑っていた。




執筆 20081220

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