Metempsychosis
in Tales of the Abyss

地震と障気とユリアの譜歌

「何言ってんだ?俺達がいつそんなこと……」

意味の解らないといったルークの言葉を、アリエッタは聞く耳持たなかった。

「アリエッタはあなた達の事許さない…。地の果てまで追いかけて……殺しますっ!」
「アリエッタ」

今にも戦闘が始まるといった雰囲気の中、ある意味渦中の人であるリスティアータが静かに言った。

「今すぐ、そこから2歩、下がりなさい」
「?」

唐突に、今までの会話とまるで関係のない事を言われ、アリエッタは目を瞬く。

そんなアリエッタにリスティアータは焦りを滲ませて急かした。

「そこから下がりなさい。早く」
「どうして…」
「話は後に。そこから下がって、アリエッタ」

変わらず繰り返すリスティアータの意図を理解出来ずにアリエッタは眉を下げたが、アリエッタに限らず、彼女の意図を理解出来る者は誰もいない。

「早く、っ!」

再度、リスティアータが言い募ろうとした時だった。
まるで地面が、足場というものが、今にも崩れ去るかのように振動し始めたのは。

「うわぁぁ!」
「わっ!?」
「うおっ!?」
「きゃ…っ!」
「地震か…!」

全員が慌てて体勢を保持したが、その直後に地面からどす黒い気体が噴き出したのを見て顔色を変える。

「おい、この蒸気みたいなのは……」
「障気だわ……!」
「いけません!障気は猛毒です!」
「きゃっ!!」

聞こえたか細い悲鳴にルーク達がそちらを向けば、丁度足下から噴き出した障気の直撃を受けて、地面に倒れ込むアリエッタが。

「アリエッタ!」

微かな悲鳴を聞きつけたリスティアータが青醒めた顔で椅子から立ち上がり、とっさに走りだそうとする。
目も閉じたまま、後先考えずの行動だった。

しかし、

「っ!?」

とても強い力で腕を引っ張られ、押し付けられる。

思わず一度瞬いて垣間見えたのは、海を思わせる碧。
自分を『拘束』しているのがジェイドだとすぐに理解した。

「っジェイド!」
「……」

懇願の響きを持ってリスティアータが呼んでも、ジェイドはそれを一切無視した。

その間も事態は一層悪くなり、一行は噴き出した障気に囲まれてしまう。

逃げる手段もないかと思われたが、ティアだけは違った。

激しく地震の中、目を閉じて意識を集中させる。

「譜歌を詠ってどうするつもりですか」

──… クロア リュオ ズェ トゥエ リュオ レィ,ネゥ リュオ ズェ …──

「待って下さい、ジェイド。この譜歌は…──」

そんな場合ではないと、訝しげに言ったジェイドを止めたイオンは、完成した譜歌を聴いて驚いたように目を見開いた。

「──…ユリアの譜歌です!」

ティアが詠い終えた直後、地面には譜陣が浮かび上がり、ドームのような光の壁が皆を囲む。

そして譜歌の光が消えた時、あれだけ激しかった地震は収まり、噴き出していた障気も鳴りを潜めていた。

「障気が消えた……!?」
「障気が持つ固定振動と同じ振動を与えたの。一時的な防御壁よ。長くは持たないわ」

驚愕しきりのガイに説明したティアの言葉を聞いて、ジェイドはなる程と頷く。

「噂には聞いた事があります。ユリアが残したと伝えられる七つの譜歌……。しかしあれは暗号が複雑で、詠みとれた者がいなかったと…」
「詮索は後だ。ここから逃げないと」

ジェイドは興味深そうにしていたが、今は話している場合ではなく、ガイが急かした。

「――…そうですね」

極普通に、あっさりと頷いたジェイドの手には、敵を殺す為の武器が、槍が、握られていた。

リスティアータから離れ、アリエッタに足を向けようとしたジェイドは、くんっと微かに袖を引かれ、すぐに動きを止める。

「……ジェイド」

軍服を引く、リスティアータの手。
勿論、その手を振り払う事は、ジェイドには簡単に出来る事ではあるが…。

「生かしておく『危険性』が、理解出来ない貴女ではないでしょう」

そう、淡々と『殺すべきだ』と口にしたが、それに対する彼女の『答え』を、ジェイドは確信していた。

「解っています。それでも……」
「……まぁいいでしょう」

予想通りの答えに呆れた嘆息をすると、あっさりと槍を消す。

「……ごめんなさい」

小さな謝罪は聞かなかった事にした。「障気が復活しても当たらない場所に運ぶ位はいいだろう?」
「ここで見逃す以上、文句を言う筋合いではないですね」

2人の様子を不安そうに見ていたイオンがほっと息を吐く中、一応とばかりにガイがジェイドに聞いた時だ。

「起きてちょうだいな」

そんな声が聞こえてそちらを向けば、リスティアータが倒れたライガを揺り起こしている所だった。




執筆 20081213

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