Metempsychosis
in Tales of the Abyss

フーブラス川

翌朝、皆が小さな変化に気付きつつも、誰も触れず、至って普通にセントビナーを後にした。

少なくとも、リスティアータとルークに気付かれない程度には普通に。

(例えガイとイオンが嬉しそうに笑っていても、例えジェイドがにんまりと笑っていても、例えティアが恍惚と頬を染めて1人で笑っていても、だ)

フーブラス川へと向かった一行は、天候に恵まれた事も幸いして順調に進み、昼前には到着する事が出来た。

フーブラス川は立ち並ぶ尖った巨大な岩が特徴的な場所だった。

時期的な事もあり、水流は至って穏やかだ。

「ここを越えればすぐキムラスカなんだよな」
「ああ。フーブラス川を渡って少し行くと、カイツールっていう街がある。あの辺りは非武装地帯なんだ」
「早く帰りてぇ…。もう色んな事がめんどくせー」

ふと昨日の話を思い出して訊いたルークは、ガイの返事にげんなりと溜め息を吐いた。

と、

「ご主人様、頑張るですの。元気出すですの」
「おめーはうぜーから喋るなっつーの!」
「みゅう……」

最早お馴染みの光景となりつつあるが、ミュウがミュウなりにルークを励ますと、途端に苛立ったルークがミュウを蹴り飛ばす。
軽く(、、)飛んでコロコロと転がったミュウが切なく鳴くのを見て、ティアが眉を顰めた。

「八つ当たりはやめて。ミュウが可哀想だわ」

これまた最早お馴染みの光景になった2人の喧嘩を、起き上がったミュウが仲裁を試みる。

勿論火に油を注ぐ結果になったが。

そんな一直線なミュウには、苦手な物があった。

それは、

「みゅぅぅ…ミュウは泳げないですの…」

水。

しかし怯えで身を震わせながら言ったミュウには一切構わず、ルークは自分の靴や衣服が濡れる事を気にしている。

と、リスティアータがミュウに訊いた。

「ミュウ、私の膝に乗る?」
「いいんですの?リスティアータさん、ありがとうですの!」

天の助けを断る理由がある訳もなく、ミュウは嬉しそうにお礼を言うと、リスティアータの膝に乗るべく身軽に跳び上がった。

が、

「みゅ?」

ミュウは何故か一向に着地出来ず、それに何故か後頭部から締め付けられるような痛みを感じる。

そんなミュウの後ろには、ムスッとした顔でミュウの頭を鷲掴みにしているルークが。「ルーク!」

ティアが非難の声を上げるが、ルークの内心はそれどころではなかった。

何と言ったらいいのか解らないが、とにかくムカついたので、

「…お前は道具袋にでも詰まってればいいんだよっ!」
「み゙ゅっ」

ミュウをズボッと自分の道具袋へと詰め込んだ。

しかしそれなりにアイテムの詰まっていた袋にミュウが完全に入りきる事は出来ず、長い耳だけが飛び出てピコピコと動いている。

それを見て、毎度のようにルークに注意しようとしていたティアは完全に意識を明後日の方向に飛ばした。

皆がそんな2人(+1匹)を生温く見守る中、リスティアータだけがにこにこと微笑んでいたりする。

「あらあら、仲良しなのね」
「ち、違うっつーの!」
「ふふふふ」



途中、ジェイドがルークにフォニムの活用法を教えたり、濡れてしまった服をルークが愚痴ってガイがそれを宥めたり、魔物と幾度か戦闘したり、休憩時間に水辺で戯れていたリスティアータとクロの前をミュウが流されたりしながらも、漸くフーブラス川を渡り終えて平野へと出ようとした頃。

──…ガォォォオ!

地を揺らすような低い唸り声に、全員が揃って足を止めた。

一斉に周囲を見回していると見覚えのある巨躯が現れ、一行の道を塞ぐ。

「ライガ!」
「後ろからも誰か来ます」

ティアがイオンとリスティアータを庇うように一歩後退る。

皆が目の前のライガに気を取られていたが、ジェイドは後方に現れた気配に振り向く。

そこに現れたのは、不気味なぬいぐるみを抱き締めた、桃色の髪の少女。

「妖獣のアリエッタだ。見つかったか……」
「逃がしません……っ」

強い決意の籠もった言葉に、ルーク達も各々の武器に手を掛けて身構える。

そんな中、イオンが前に進み出た。

「アリエッタ!見逃して下さい。あなたなら解ってくれますよね?戦争を起こしてはいけないって」

イオンの言葉に眉を下げたアリエッタは、ぎゅっとぬいぐるみを抱き締める力を強くした。

喪ってしまった大切な人と同じ姿をした彼を、アリエッタは嫌ってはいない。

『彼』が、イオンとはまた違った優しさを持つ人だと知っている。

戦争を起こす意味も、知っている。

でも、

「…『あなた』の言いたい事…解る…」

アリエッタには、それ以上に大切な事がある。

「でもその人達、アリエッタの敵!」
「アリエッタ、彼等は悪い人ではないんです」
「ううん…悪い人です。だって…リスティアータ様、連れてっちゃったもん!」

イオンの言葉を振り切って顔を上げたアリエッタから向けられたのは、明確な敵意であり、明確な─────殺意だった。




執筆 20081213




あとがき

アリエッタがルーク達を嫌う理由は、単純にリスティアータと引き離されたからではありません。

じゃあ何故かって言われると、ネタバレになっちゃうから言えませんけどね(爆)

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