Metempsychosis
in Tales of the Abyss

無意味な言い合い

完全に神託の盾が撤収するのを待って物陰から出ると、ジェイドが軍人の顔で言った。

「しまった……ラルゴを殺り損ねましたか」

彼もまた、ディストの存在云々はバッサリ握り潰したようだ。

「あれが六神将……初めて見た」
「六神将ってなんなんだ」
「神託の盾の幹部六人の事です」

ガイの言葉にルークが度々耳にした単語に首を傾げれば、イオンが分かりやすく説明する。

「へぇ」と気のない返事を返したルークだったが、すぐに「ん?」と眉を寄せた。

「でも五人しかいなかった」
「黒獅子ラルゴに死神ディストだろ。烈風のシンク、妖獣のアリエッタ、魔弾のリグレット……と。いなかったのは鮮血のアッシュだな」

指折り数えてガイが彼等の名を連ねると、ティアが冷たく続けた。

「彼等はヴァン直属の部下よ」
「ヴァン師匠の!?」

自分達を襲った奴らが敬愛するヴァンの部下と知り、ルークは少なからずショックを受ける。

「六神将が動いているなら、戦争を起こそうとしているのはヴァンだわ…」
「六神将は大詠師派です。モースがヴァンに命じているのでしょう」
「大詠師閣下がそのような事をなさる筈がありません。極秘任務の為、詳しい事を話す訳にはいきませんが、あの方は平和の為の任務を私にお任せ下さいました」

ティアの推測(彼女としては最早確信のようだが)をイオンが覆すように言えば、彼女はタルタロスの時と同様に、それを強く否定した。

そんな中、フィエラは困ったように眉を下げる。

ティアは彼女だけが知る事を基にヴァンが戦争を起こそうとしていると思っている。

対するイオンもまた、教団上層部のみが知る機密事項を理由にモースが戦争を起こそうとしているのを知っている。

2人が互いにその理由を明かさない限り真相は見えないが、2人が互いにその理由を明かす事は無く、意見は相容れずに延々と平行線を辿るのだから、正直あまり意味があるとは思えなかった。

「ちょっと待ってくれよ!ヴァン師匠だって、戦争を起こそうなんて考える訳ないって」
「兄ならやりかねないわ」
「なんだと!」

尊敬するヴァン師匠の事なら黙っていられないと勢い込んでルークがヴァンを擁護する。

そこに根拠は皆無なので効果の程は微妙だが。

と、ティアが冷淡に言えば、ルークはすぐに熱り立った。

最早恒例となりつつある2人の口喧嘩にフィエラが苦笑した時だ。

フィエラの横を通り過ぎた人と肩が軽くぶつかってしまった。

「おっと、すまないね」
「こちらこそ、ごめんなさい」

すぐに謝ってきた男性に、フィエラもぺこりと頭を下げる。

すると男性がおや、といった顔でフィエラ達を見た。

「見慣れない顔だな。旅人さんかい?」
「はい。大切な用があって、カイツールへ向かう途中なんです」
「そうなのかい?そりゃぁ残念だったな」

憐れみを含んで言った男性に、フィエラは首を傾げる。

「どうかしたんですか?」
「いやな、フーブラス川に架かってた橋はこの前の増水で流されちまってな。今は通れないんだよ」
「まぁ、そうなんですか」

困ったわ、と眉を下げたフィエラに、男性は何故か申し訳なくなってしまった。

「橋の修理はもう始まってるが、直るのはもう少しかかるだろうなぁ…」
「そうですか…。教えて下さってありがとうございます」
「ああ、道中気をつけて」
「はい」

男性に礼を言って別れて再び皆の方を向くと、ガイに諫められたルークがそっぽを向いた所だった。

口喧嘩は終わったらしい。

「──終わったみたいですねぇ。それではカイツールへ向かいましょうか」
「あんた、いい性格してるなー……」

清々しい笑顔で言ったジェイドにガイはうんざりと肩を落とす。

と、リスティアータがぽむっと手を合わせて言う。

「それなんですけれど、出発は明日にしませんか?」
「何故です?」

突然の提案にジェイドが目を細めた。

「フーブラス川の橋が増水で落ちてしまっているそうなんです」

ケロッと答えたリスティアータの言葉に、微妙な沈黙が流れる。

「……因みに、それはいつ、誰にきいたんだ?」
「? 今さっき、行商人の方にだけれど?」

いけなかったかしら?と首を傾げたリスティアータに、ガイは先程より深く、どっぷりと溜め息を吐いた。

「君も…いい性格してるよ…」
「あら、そうかしら?ありがとう」

にっこり笑顔でお礼を言われて、ガイはこの先を思ってまた溜め息を吐く。

何となく、自分はこの苦労を度々味わう事になる気がしてならなかった。




執筆 20081202

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