Metempsychosis
in Tales of the Abyss

思うより、ずっと ーside Jadeー

落ち着かない。

それがジェイドの率直な感想だった。

ただし、それはジェイドではなくコーラル城に向かう他の面々についてであり、ジェイド自身は含まれていないのだが。

一同が落ち着かない原因は、まぁ言うまでもないだろう。
ジェイドを除く全員にとって、突然、唐突に、前触れもなく、いきなり、尚且つふんわりと、リスティアータがアリエッタ襲撃の痛手による混乱を極めるカイツール軍港に残ると言い出し、実際に彼女を置いてきてしまったからだ。

チラチラと、見える訳もないカイツール軍港方面を振り返っては、すぐに前を向いてやたらと皆を急かすルーク。
他の面々も似たようなものだ。
ルークの急かしに反論するでもなく、イオンを気遣いながらも出来る限りの早さで進む。

そして、丸1日半が経過した頃、漸くコーラル城へと辿り着いた。
普通ならば丸2日はかかる道のりを考えれば、かなりの早さで。

無駄な戦闘を避けたのもあるだろうが----------

(ルークの『我が儘』も偶には役に立ちますね)

ジェイドは内心で呟いた。



コーラル城の屋上で、アリエッタが気を失って崩れ落ちるのを、ジェイドは冷めた目で見つめていた。

そして、一旦消していた槍を出現させると、スタスタと軽くさえ感じる足取りで前へと進み出る。

それに気付いたルークが引き止めるより早く、ジェイドの前に小さな姿が立ちふさがった。

「待って下さい。アリエッタを連れ帰り、査問会にかけます。ですから、ここで命を絶つのは……」
「それがよろしいでしょう」

イオンの言葉にジェイドが応えるより早く、聞き覚えのある声が響いて皆がそちらを振り返れば、こちらへと歩み寄るヴァンの姿があった。

「師匠……」
「カイツールから導師到着の伝令が来ぬから、もしやと思い軍港に行ってみれば、ここへ向かわれたと……」

軍港、それを聞いてピクリと片眉を跳ねさせたジェイドに気づかず、イオンは申し訳なさそうに眉を下げた。

「すみません、ヴァン……」
「過ぎた事を言っても始まりません。アリエッタは私が保護しますが、よろしいですか?」
「お願いします。傷の手当てをしてあげて下さい」

そう告げるイオンに静かに頷いたヴァンがアリエッタを抱き上げるのを眺めつつ、ガイが一段落と溜め息を吐きつつ訊く。

「やれやれ…。キムラスカ兵を殺し、船を破壊した罪、陛下や軍部にどう説明するんですか?」
「教団で然るべき手順を踏んだ後、処罰し、報告書を提出します。それが、規律というものです」

恐らくヴァンに向けられただろう問に答えたイオンは、常の穏和な雰囲気とは違い、導師然としている。

そんなやり取りを、ジェイドは輪から一歩離れて眺めていた。

元よりこれはキムラスカ、ダアト間に生じた問題であり、マルクト軍人であるジェイドには関わり無いと言っていい。

そして導師イオンがそれを決めたのならば、ジェイドが口出し出来る余地もなかった。

(イオン様にお任せします…ねぇ。確かに…)

カイツール軍港で、彼女が自分の説得に返した言葉。

その時は考える余裕は無かったが、考えてみれば確かにそうだろうなと思える。

と、ジェイドがつらつらと考えを巡らせていれば話は進み、ヴァンに馬車で共にカイツール軍港へ向かうかと訊かれ、イオンがどうするか考えている所だった。

とは言え、

「俺も馬車がいいな。歩き疲れてかったりーし」

予想出来たルークの発言であったが、今のジェイドにとっては悪くない選択。

ずれてもいない眼鏡を押し上げながら、ジェイドは静かに目を細めた。



コーラル城ではやはりと言うべきか、当然と言うべきか、色々とあった。

カイツール軍港へと向かう馬車に揺られながら、ジェイドは時間を有効に使うべく、一人考えを巡らせる。

背後からしがみついたアニスへ過剰な反応を見せたガイの過去も気になる所ではあるが、今はそれよりも…………。

ジェイドは自身の目が鋭くなるのを感じ、静かに眼鏡を押し上げた。

視界の端っこを掠めた気がしなくもない洟垂れが関与しているならば、自分の推測にまず間違いは無いだろう。

うっそりと、内に苛立ちが溜まるのを感じ、ジェイドはそれを断ち切るように一度きつく目を閉じた。

そして再び目を開けた時、気を逸らすように考えていた事が尽きてしまった事に気づき、ジェイドは内心で困惑する。

そうなって漸く向き合った自分の行動に、らしくもなく深い深い溜め息を吐いた。

突然の溜め息に、同乗していたイオン達が「どうかしましたか?」と訊いてきたのを「何でもありません」と誤魔化して、再び、今度は微かな溜め息を吐く。

早く行くぞと急かすルークの我が儘は役に立った。

帰りに馬車を選択したのも同様に。

何故そう思ったのか……?

(落ち着かないのは、私も同じみたいですねぇ)

三度深い深い溜め息を吐いたジェイドに、再びイオン達は首を傾げるのだった。




執筆 20090228

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