Metempsychosis
in Tales of the Abyss

愛しき人よ ー息子編ー

朝、ジェイドが目を覚ますと、隣に愛妻の姿が無かった。
とは言え、一家の家事を一手に引き受ける彼女の朝は早く、いつもの事なのだけれども。

それにしても、とジェイドは笑う。

隣にある他者の気配に、何とも無防備に眠る日が来ようとは、数年前ならば塵程も考えられなかった。
それだけ彼女が特別な存在という事でもあるが、同時に、自分がそれだけ彼女に心を開いているという事でもあるのだろう。
そう思うと、我が事ながら妙な居心地の悪さと言うか、くすぐったい気持ちになる。

と、
ガチャリと、気配も前触れもなく、寝室のドアが開かれた。

「……………」
「……………」

ジェイドとドアを開けた者が視線をぶつけ合う事数秒。
何も言わない相手に、ジェイドはわざとらしくも呆れた嘆息を吐く。

相手の眉がむっと寄せられたのを知りつつも、棘々しい物言いで、

「……何か?」

そう言った。

更にむむっと寄せられる相手の眉。
長い長ーい、最早睨み合いの末、

「……………」
「…おや」

相手は結局何も言わず、不機嫌そうにぷいっと顔を逸らし、寝室のドアを閉めて去ってしまった。

それをただ見送って、ジェイドは用意されていた軍服に着替えるべく、ベッドを降りる。
既に、相手の事など意識に無かった。



一方、ジェイドが愛して愛して愛し過ぎな位に愛して止まない愛妻、フィエラは、作り終えた朝食をテーブルに並べていた。

と、

「あら?」

ぎゅっと腰にしがみ付かれ、きょとりとしながら下を見る。
そこにはやはり腰にしがみ付き(身長が足らずに若干ぶら下がっている)、じっと此方を見上げる男の子の姿があった。

「ジュニア、お父さんを起こしてくれたかしら?」

ジュニアと呼ばれた子供は、若干悩んだ。

言われた通り起こしに行ったまでは良いが、相手は既に起きていて、自分は起こしていないのだ。
別にここで1つ頷けば、良くできましたと優しく頭を撫でられて終わる。
それは大変棄てがたいが、しかし、フィエラ…自分の母に嘘は吐きたくない。

この時重要なのは、嘘を吐きたくないという部分ではなく、母に、という部分だ。
間違えてはいけない。
その他が相手ならば、全く何とも思わないのだから。
ただ、そう言えば母が悲しむので言わないが。

「…もう起きてた」
「そう。でもお手伝いしてくれてありがとう」

ふわふわと、優しく頭を撫でられて、ジュニアは目を細めた。

何度経験しても落ち着く。
ジュニアは母に撫でられるのが大好きだった。

と、

ぐいっと強い力で襟首が引っ張られて、体が浮く。

驚いたのは一瞬で、犯人にはすぐに検討がついた。
と言うか、1人しかいない。

「おはようございます、フィエラ」
「あら、おはようございます、あなた」

気配なく現れた犯人、ジェイドは、猫の如く摘み上げたジュニアはそのままに、にぃっこりと甘やかな笑顔で愛妻に朝の挨拶をする。

それに負けず劣らず甘やかな微笑みでフィエラも挨拶を返した。

-----------万年新婚夫婦

マルクト皇帝に呆れられた夫婦のラブラブっぷりは、グランコクマではかなり有名な話。

それと、近年有名になり始めたのが、

「朝ご飯、もうすぐ用意出来ますから、ちょっと待って下さいね」
「ああ、ゆっくりで構いませんよ、まだ時間はありますから」
「………」
「………人妻の細腰に触れるとは、感心しませんね」
「………母です」
「………私の妻です」
「ぼくの母です」
「私の妻です」
「ぼくの母です」
「妻です」
「母です」
「妻」
「母」
「………………」
「………………」
「用意が出来ましたよ。2人とも、朝ご飯にしましょう」
「「はい」」

死霊使いジェイドが、フィエラを巡って、息子とライバル関係にあるという話。

いい歳した大人が、まだ幼い、しかも自分の息子相手に大人気ないと思うだろう。

しかし、なかなかどうして、この息子は侮れない。

パッとジェイドの猫掴みから逃れたかと思えば、再びフィエラの腰にしがみつく。

「あら、今日は何だか甘えんぼさんね」

そう言いながらもフィエラも嬉しそうに息子の頭を撫でる。

と、

「…………」
「…………」

ふっ、と、奴は笑った。

その笑みが語るのは、優越感。

つまりは、どーだ、羨ましいだろー、みたいな。

そう、そうなのだ。

息子は本当に子供らしくない。

言ってしまえば欠片も可愛くない。



一体誰に似たんだか。



そうさめざめと溜め息を吐いた所で、ジェイドはハッと目を覚ました。

今日の宿屋は一人部屋で、当然ジェイド以外の者はいない。

「…また夢ですか」

そう呟いて、ジェイドは再びどっぷりと溜め息を吐いた。

先日の、らしくない居眠りで見た夢。

その続きと思しき夢だったが、今日ばかりは夢で良かったと心底思う。

「私そっくりの子供なんて、悪夢以外で…いや、悪夢でも許容出来ませんね…」




執筆 20090919










あとがき


Projectにて、飛鳥さんからの投稿ネタ

「夢主とジェイドの夫婦ネタ、2人の子供との日常生活」

を基に書いてみました第2弾。

今回は息子編です。
娘は父に、息子は母に似ると聞きますが、ジェイドの血は濃ゆそう(爆)
よってジェイド似の可愛くねぇ息子に決めました。

娘編、書くべきでしょうか…?

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