誰か夢だと言って下さい・2
久しぶりに姉と話せてホクホク顔で街中を歩いていたアッシュは、ふと、非常に遅蒔きながらもふと、違和感を感じて足を止めた。
「…………何で姉上に繋がったんだ?」
そう。
自分が繋げたのはレプリカの野郎であり、不本意ながらも自分の完全同位体は奴だ。
なのに、繋がった先は姉上で……
「………あ?」
おかしな矛盾にアッシュの眉間に皺が寄った。
もし…もしだ。
繋がった先に間違いがなかったとしたら、どういう意味になるのか。
その考えに至った瞬間、アッシュの背筋を物凄い寒波が襲った。
「…………」
まさか、まさかと思いつつ、無言で踵を返したアッシュは、急いでアルビオール3号機へと駆け出した。
姉との会話で現在地を訊いていて良かったと心底思った。
姉への心配の成せる技で、アッシュはものの数時間でレプリカ達の、いや、姉のいる街へと到着していた。
そして街に一件しかなかった宿屋の門扉を潜ると、受付の男に猛然と詰め寄る。
「ここによく解らん大所帯が泊まっているだろう!?」
「は、はぃぃっ!」
「部屋は何処だ!!」
「に、二階の」
鬼気迫る勢いに血走った目に恐怖しきりの男は、全泣き状態ながら何とか答えていたが、アッシュは皆まで聞かずに階段を駆け上った。
そして扉を片っ端から開けていき、最後の扉に手を掛けて開け放った先に探し求めていた姿を見つける。
「姉上!」
突然開かれた扉とアッシュの登場に驚く面々に構わず、アッシュは皆と同様に目を見開く姉の肩を掴んだ。
「良かった…無事だったんだな…」
心底ホッとして息を吐いたアッシュは、その場の微妙な空気と、姉の超気まずそうな顔に首を傾げる。
「姉上?」
「…………あの、アッシュ」
「なんだ?」
言い倦ねたようにボソボソと話す姉に違和感を感じながらも、言葉一つ聞き漏らさないようにと耳を傾けたアッシュを、
「あら、アッシュ」
衝撃が襲った。
『あら、アッシュ』
そう呼ばれて振り返る。
そこには声の通りの人物、(何故か腹にタオルを捲いた)レプリカ野郎がトレイに人数分のティーセットを持って立っていた。
その立ち姿は心なしかしなやかで…
『あら、アッシュ』
自分をそう呼びやがったレプリカ野郎は、にこにこと柔らかな微笑みを浮かべて、自分を見ている。
………………………………………『あら、アッシュ』?
『あら』って何だ。
姉上じゃあるまいし、レプリカ野郎が『あら』って何だ。
それにその微笑みは何だ。
まるで姉上の………姉上、の……………………?
「……………は?」
「久しぶりねぇ。こうして姿が見れて嬉しいわ」
にこにこと微笑みながらレプリカ野郎に話し掛けられる。
それに答えられる訳もなく、呆然と立ち尽くしていたアッシュは、ギシギシと音が立ちそうなぎこちなさで『姉上』に顔を向けた。
「………まさ、か………」
『姉上』は泣きそうな顔でコクリと頷く。
「……俺…ルークなんだよ…」
「っっっっ!!!!」
アッシュは叫ぶ事さえ出来ずに息を呑み、勢いよく『レプリカ野郎』を振り返った。
「…あ…姉上…なのか…?」
どうか違うと言ってくれと、アッシュの心からの願いは、儚くもあっさりと散る事になる。
「ええ、そうよ?」
きょとりと目を瞬かせた『レプリカ野郎』は、今気づいたとばかりに説明を始めた。
「あぁ、この姿?よく解らないけれど、朝起きたらこうなっていたの。びっくりしたわ、ふふふ」
ふふふじゃないだろ。
相手が正真正銘『レプリカ野郎』だったなら、アッシュは迷う事なくシバき倒しド突き回しぶっ飛ばしたに違いない。
しかし、アッシュは悟ってしまった。
『これ』は間違いなく、『姉上』その人だと。
「っくしゅ!」
またも呆然と立ち尽くすアッシュをよそに、可愛らしいくしゃみをした『レプリカ野郎』改め『姉上』は、テーブルにトレイを置くなり、もじり、と自らの腹部を抱き締めた。
その瞬間…--------
「やっぱりお腹が寒いわねぇ……」
--------…アッシュが灰になった。
執筆 20081229
あとがき
Project投稿ネタ
「入れ替わりネタ続編」&「シスコンなアッシュ」
を基に書いてみました。
異様に人気を博したらしい「入れ替わりネタ」ですが、あの先を考えつけなかったのでアッシュを巻き添えにしてみました。
同時進行だったのでメンバーの出番皆無だしアッシュメインだしで偏った話になっちゃいましたが、如何でしたでしょうか?
どうでもいいんですが、宿屋に乗り込んで来た時のアッシュが24の某主人公みたいだと今更思いました。
では、投稿者様はもちろん、皆様に楽しんで頂ける事を祈ります(__)
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