Metempsychosis
in Tales of the Abyss

麗らかな日に

今日も今日とて麗らかに晴れたグランコクマ。

その中のとある施設の中庭にて。

「------…そして、お姫様は幸せに暮らしたのでした。めでたしめでたし」

パタンと本を閉じてフィエラが微笑むと、彼女を囲むように思い思いの体勢で物語を聞いていた子供たちは、ほぅっと溜息を吐いた。

「2人が幸せになれて良かったよな!」
「お姫様、いいなぁ」
「私も王子様に会えるかな」

子供たちの素直な感想を楽しそうに聞いていたフィエラは、ふと陽が遮られたので顔を上げた。

「あら、ジェイド」
「お楽しみの所、失礼しますよ」
「いいえ。私に何か?」
「ええ、まぁ、少し」

こてんと首を傾げたフィエラに苦笑しつつジェイドが言葉を濁すと、言いにくい事かと察したフィエラはパチパチと手を打った。

「みんな、次はかくれんぼをしましょう」

ジェイドの突然の登場に固まっていた子供たちが、それを聞いた途端に元気よく「はーい!」と返事をする。

「鬼は私がやるから、みんな頑張って隠れてね」

言うや否や、子供たちはワーっとあちこちに駆け出し、中庭には2人以外誰もいなくなった。
いつもながら、鮮やかな手際にジェイドは感心する。

「あの方はこちらに来ていませんか?」
「いいえ。来ていませんけれど、執務をしていらっしゃるのでは?」
「いえ、それが…」

と、

「フィエラ〜〜!」

突然フィエラの背後の茂みから人影が飛び出したかと思ったら、人影は何やら桃色な声で彼女の名前を叫びながらガバリとその華奢な体を抱き締めた。

「あら、あなた」

抱きつかれた当人は驚きもせずに相手を確認すると、他に向けるのとはまた少し違った微笑みを浮かべて相手を呼んだ。

『あなた』

その真に特別な呼び方に、新婚の期間は疾うに過ぎているのに未だに笑み崩れる相手は、正直ジェイドから見ると気色悪い。

なので、さっさと現実に戻って貰う事にした。

「へ・い・かv」
「んげっ!!」

フィエラしか見ていなかった笑み崩れた相手・ピオニーは、ジェイドの甘〜い呼び掛けに顔を盛大に歪める。

「漸く見つけましたよ。執務に戻って下さい」
「嫌だ」

完璧な作り笑顔で促したジェイドをピオニーは真顔で一刀両断した。

が、

「……あなた」
「なんだ?…ぅ」

フィエラに呼ばれて瞬時に桃色笑顔に表情を変えたピオニーは、彼女の【笑顔】を見てたじろいだ。

何故ならその笑顔は、

「執務を終えていらしたのではないんですか?」
「ぅ…」

怒り笑顔だからだ。

嘘を許さぬ微笑みに、ピオニーは気まずそうに顔を背ける。

その時だ。

「フィエラ様、失礼致します」
「あら、アスラン」

フィエラ達から少し離れた所から丁寧に礼をしたアスランが、申し訳なさそうに歩み寄って来た。

それにより怒り笑顔から解放されたピオニーがほっと息を吐いた。

「どうかなさいました?」
「はい。いつものお時間になってもお帰りにならないと、メイド長に泣き、いえ、頼まれて、お迎えにあがりました」
「あら、いけない。もうそんな時間だったのね」

急いで帰らなくてはと、既に弛んでいたピオニーの腕を素気無く払ったフィエラは立ち上がり、数歩歩いた所で足を止めてピオニーを振り返った。

「そうそう、子供達とかくれんぼをしていたんです。鬼は私なんですけど、私は帰らなくてはいけないので、代わりに鬼をお願い出来ますか?」
「お、おう」
「ありがとうございます」

速攻で頷いたピオニーににっこりと微笑んでお礼を言ったフィエラは、思い出したとばかりにポンと手を打った。

「それから、これはあなたが執務を終えてからお伝えしたかったんですが」
「な、何だ?」

こんな時でさえ『あなた』の響きに笑み崩れられるピオニーを、ジェイドは少し感心してしまった。

「3ヶ月だそうです」
「「…………は?」」

優しく自らの腹部を撫でながら、さらっと言われたフィエラの報告に、ピオニーのみならずジェイドさえ呆気にとられる。

今、彼女は何と言った?

「まだ男の子か女の子かは解らないですけど。では、お願いしますね」

しっかりとピオニーを(ジェイドを巻き込みつつ)固めたフィエラは、ぺこりとお辞儀をしてアスランと2人で宮殿への帰途についた。



さて、中庭に取り残された男2人は。

「………3ヶ月って言ったか?」
「…言ってましたねぇ」
「…それって、妊娠か?」
「少なくとも余命ではないでしょうね」
「当たり前だろ。縁起でもない事言うな」
「これは失礼しました」
「とりあえず」
「とりあえず?」
「ガキ共探し出してフィエラに謝ろう」
「…そうして下さい」
「薄情な事言わずにお前も捜せ!」
「嫌ですv」
「皇帝勅令!」
「…………はぁ」



斯くして、今日も臣下達の苦労は続くのであった。



執筆 20081101










あとがき


Project投稿ネタ

「民にも陛下にも愛されてるマルクト王妃なヒロインで、お茶目な陛下と天然なヒロインに振り回される臣下たち」

を基に書いてみました。

如何でしたでしょうか?
因みにとある施設は孤児院です。
きっとお忍びでフィエラはよく行くんだろうな〜と。

ピオニー難しくて時間掛かっちゃいましたけど、楽しかったのでまた書きたいです。

ネタ投稿ありがとうございました♪

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