Metempsychosis
in Tales of the Abyss

はじめてのカジノ

------…何だろうか、この状況は。

常日頃からその明晰且つ回転の早い頭脳を用いて冷静沈着に物事を捉えてきたジェイドは、上品な音楽が流れるカジノの中で、呆然と立ち尽くしていた。

そもそも、ジェイドが何故カジノに居るのかと言えば、単にケテルブルクへ補給に立ち寄ったらアニスがカジノを発見してしまい、皆が皆興味を示した結果、少しだけ気分転換をしようという話になったのだ。

------…何なのだろうか、この状況は。

ジェイドの疑問に答えてくれる者は、残念な事に誰も居なかった。



「それでは、1時間程したらまたここに集合しましょう」

まるで保護者の如きジェイドの言葉を聞くや否や、文字通り目の色を危ない色に変えたアニスを筆頭に、一行はカジノの出入り口からお小遣いチップ数枚を手に別れた。
無論、アニスは速攻で駆け出して、既に姿は見えないが。

そんな訳で1人でカジノを歩き回っていたフィエラは、おのぼりさん宜しく煌びやかな天井やら壁やら装飾やら何やらかんやらに目をシパシパさせていた。
初めてのカジノはあまりにキラキラし過ぎていて、正直フィエラは落ち着かない。
カジノに入って5分程、少し休みたくなったフィエラは手近な椅子に腰掛けた。

「いらっしゃいませ」
「あら?」

フィエラが椅子に座ってふぅっと溜息を吐くと、テーブルの向こうに立っていた男性店員(正しくはディーラー)に頭を下げられた上、何故か目の前に裏返したトランプを5枚配られた。

「えっと…?」
「お客様はポーカーをしにいらしたのではないのですか?」
「ぽーかー…ですか?」

意味が分からず首を傾げるフィエラに、ディーラーもまた首を傾げて訊いてくる。

聞き慣れない言葉にまた更に首を傾げたフィエラに、流石のディーラーも苦笑した。

「はい。ここはポーカーをするテーブルですので。ポーカーをなさいますか?」
「初めてやるんですけれど…」
「やりながらお教えしましょう」
「まぁ、いいんですか?では、折角なので…」

事前にジェイドからチップを換金出来ないと聞いていたフィエラは、一度位ならとポーカーをやってみる事にした。

テーブルにはフィエラ以外にも3人がテーブルに座っていて、ディーラーが改めて全員に裏返したトランプを5枚ずつ配る。

「まず、参加料としてチップを1枚払って頂きます」
「はい」
「次にビットするかパスするか選んで下さい」
「えっと…よく分からないのでぱす?を」

カードを見もせずに言ったフィエラに、他の客達はいいカモだと思ったらしく、隣に座っていた客がビットした。

それでいよいよゲームが始まったのだが、フィエラはただニコニコと裏返されたままのカードを眺めている。

流石にディーラーは不安になった。

「次に、ドロップ・コール・レイズを選んで下さい」

フィエラがディーラーに言葉の意味を説明される中、客達は次々にコールと言い、フィエラもまたカードを見もせずにコールした。

「あの…お客様…カードを確認された方が…」
「あら、そうなんですか?でも私、カードを見ても解らないですから」

にっこりと言われてしまえば、ディーラーに返す言葉はない。

フィエラは適当にカードを2枚交換した後にパスをしてコールをすれば、カードを見せるように言われた。

他の客達は口々にスリーカードだのフルハウスだのフラッシュだの言っているが、フィエラは何の事だか分からない。

首を傾げつつカードをひっくり返すと、カードを見たディーラーが固まった。

「あの?」
「スペードの…ロイヤル…」

呆然と呟かれたディーラーの言葉に、客達はどよめいた。
あまりに皆が目を見開いているので、流石のフィエラも若干引いた。
「あ…あの…?」
「あ、ああ…失礼致しました。お客様の勝ちでございます」

何やら挙動不審気味になってしまったディーラーは、頭を下げると小山になったチップをフィエラの前に押し出した。



「あら?ジェイド」

現実逃避しようと遠くを見ていたジェイドは、柔らかな声で名前を呼ばれて、否が応でも現実を直視せざるを得なくなった。

視線を声がした方に向けると、ぐったりと床にテーブルに壁にと突っ伏した数人の客に、青醒めた顔で「そんな…今度はファイブカード…」と嘆いているディーラー、テーブルに乗り切らなくなったらしい膨大な量のチップ、一応交換したのだろうアイテムやら装備品やらは床に転がっていて、それらに囲まれて頭だけが辛うじて見えるリスティアータがいつもの微笑みでジェイドに手を振っている。

------…何だろうか、この状況は。

常日頃からその明晰且つ回転の早い頭脳を用いて冷静沈着に物事を捉えてきたジェイドが、上品な音楽が流れるカジノの中で呆然と立ち尽くしたのは無理もないだろう。




執筆 20081016










あとがき


Project投稿ネタ

「ケテルブルクのカジノで何故かポーカーをする事になった夢主さん。ルールも何も知らないのに何故かぼろ儲けでジェイドさん唖然」

を基に書かせて頂きました。

ネタを投稿された方の妄想通りかは解りませんが、楽しんで頂ける事を祈ります。

あ、因みにポーカーのルールとか間違っていても深いツッコミは無しでお願いします!!

プラウザバックでお戻り下さい。

Back

×
「#エロ」のBL小説を読む
BL小説 BLove
- ナノ -