Metempsychosis
in Tales of the Abyss

他人の距離

その日、グランコクマに到着した一行は、翌日の出発に備えて早々に休む事になった。

アイテムの補充をしようと宿屋の出口に向かったガイは、同じく1人で出口に向かうリスティアータと鉢合わせした。
訊けば散歩に行きたいらしい。
彼女は街中を見て回るのが好きらしく、旅の最中何度も訪れた街でさえ、よく散歩に出ていた。
今回もそれなのだろうが…

「1人でかい?」
「ええ」

何度もジェイドやティアから1人では危ないからと注意されているのに、と、ガイは一向に治らないらしい彼女の癖に溜息を吐く。

「1人じゃ危ないよ。俺も買い物に行く所だから、一緒に行くかい?」
「あら、良いの?」
「ああ、もちろんさ」

1人で出掛けられて捜索する羽目になるよりはね、とガイは内心で呟いた。



遠くから滝の音が響く街中を歩きながら、ガイはチラリと隣を見た。
リスティアータは隣をいつもと変わった様子もなく歩いている。

しかし、2人の間は人が3人は余裕で立てそうな程に空いていた。
の、だが、それさえもいつもと同じだった。



そもそもの原因は、彼女と初めて出会った時に遡る。

当時、訳あってその漆黒の双眸を閉じていた彼女は、初対面の相手の顔に触れるのが定例だったらしいのだが、それを知らなかったガイは、突然前触れもなく顔を触られ、最初こそジェイドに押さえつけられていたものの、最後には全力で彼女の手を振り払い、彼女から離れたのだ。

リスティアータは心底申し訳なさそうに謝ると、もう近付かないからと言った。
そして、その言葉通りに一切ガイとの距離を縮めなくなった。

会話はする。

でも距離は縮めない。

それが嫌われているからではない事ぐらい、ガイだって解っている。
今の距離は、ガイの女性恐怖症を刺激しない為に、リスティアータが細心の注意を払って取ってくれている距離なのだと。

しかし。

しかし、だ。

そんな事情を知らない他人から見れば、まず自分達は知り合いには見えまい。
この距離はどう見ても【他人】の距離だ。
寧ろ、長い距離を並んで歩けば歩く程、男の自分がついて回っているように映る可能性さえあった。

それに、何より寂しく思う。
突然で心底驚き、女性に対して失礼な程力一杯振り払ってしまったが、触れていた優しい手は決して不快ではなかった。

寧ろあの時条件反射さえ起こらなければ…、とそこまで考えて、ガイは自分を誤魔化すように意味も無く咳払いをする。

と、とにかく、せめてこの距離をどうにかしたい。

そこに考えを移動させ、悶々とどうするべきか考える。

(俺の方から距離を縮める、とか?)

(でも彼女、近づいた分だけ離れそうだよな…)

(それの繰り返しで海に落ちたりしそうだ…)

(……シャレにならないから駄目だな)

「ガイ?」

(遠回しに言ってみるか?)

(いや、リスティアータは結構天然なところがあるしな…)

(遠回しに言って変に誤解されたりしたら、更に距離が開きそうだ…)

「ガイ…?」

(うーん…やっぱりハッキリ言った方が良いのか…?)

「………」

1人悶々と考えを巡らせていたガイは、何故か自分から一歩離れたリスティアータの行動にハッと我に返った。

「リスティアータ?どうして、あーその…離れたんだい?」
「え?だって、ガイったら呼んでも返事がないし、眉間に皺を寄せていたから、また距離が近過ぎて恐怖症が出ちゃったのかと思ったのだけど…」

ガイはその場で頭を抱えたくなった。
必死に考える余り、自分で自分の首を締めてしまったのだから当然だ。

しかし、すぐにガイは気付いた。

これはまたとないチャンスではないか?

今の会話中に上手く距離を縮めたいと伝えられれば、少なくとも他人の距離からは脱出出来る!

「…いや、違うんだ。反対だよ」
「反対?」

キョトンと首を傾げたリスティアータに、ガイは説明する。

「その…最近では大分恐怖症もマシになってきたからさ、リハビリではないけど、治す努力を始めてみようかと思って、どうしたら良いか考えていたんだ」
「まぁ、そうだったの」

ガイの説明に納得したのか、リスティアータは引いていた一歩を戻した。

「ああ。何か良い案はないかな?」
「そうねぇ」

相談するように尋ねれば、彼女は親身になって考えてくれる。
その優しさが何より嬉しかった。

と、何か思いついたらしく、ぽむっと手を打ったリスティアータは、満面の笑みをガイに向けた。

「では、私が少しずつ近付くから、無理になったら言ってちょうだい。ちょっとずつ、慣らしてみましょう?」



その日から、2人の距離は縮まった。

他人の距離はなくなり、知り合いの距離をすっ飛ばして仲間の距離になった。

突然の変化に仲間達は驚き、暫くガイは鼻歌が止まらない程にご機嫌だったらしい。




執筆 20080925










あとがき


Project「ネタ投稿」で投稿して頂いたネタ

「夢主が(連載過去のように)顔に触ろうとするけど、ガイは怖くて逃げちゃう…でも触って欲しいから悩む」

を基に書いてみました。


ネタ投稿して下さった方の妄想通りではないでしょうが、楽しんで頂ける事を祈ります。

でも、ガイが微妙に変態っぽくなったと思うのは、私だけですか……?

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