決意表明
翌朝、最後に起きたルークが支度を終えた頃、ジェイドが言った。
「私とガイとティアで、三角に陣形を取ります。あなたはイオン様達と一緒に中心にいて、もしもの時は身を守って下さい」
「え?」
「おまえは戦わなくても大丈夫って事だよ。さぁ、行こうか」
その内容に呆然と立ち尽くすルークに、ガイは何でもない事のように要約して伝えると、明るくルークを促す。
しかしルークは動かなかった。
皆が街道を進み始めているのに、じっと地面を見つめている。
「ま、待ってくれ」
緊張したように掠れた声でルークが皆を呼び止めた。
皆、確かに足を止めたが、まともに振り向いたのはイオンだけで、ガイは少し目を逸らし、ジェイドとティア、そしてリスティアータに至っては背を向けたままだ。
彼らは察しているのだろう。
今、ルークが言わんとしている事を。
「どうしたんですか?」
「……俺も、戦う」
「人を殺すのが怖いんでしょう?」
ジェイドの鋭い切り返しにルークは返事にぐっと詰まった。
「……怖くなんかねぇ」
「無理しない方がいいわ」
辛うじて返した言葉は、誰の耳にもやせ我慢にしか聞こえない。
ティアが諭すように言うが、それは逆にルークの気持ちを強固にしてしまったようだ。
「本当だ!…そりゃやっぱ、ちっとは怖ぇとかあるけど…戦わなきゃ身を守れないなら、戦うしかねぇだろ。俺だけ隠れてなんていられるか!」
「ご主人様、偉いですの」
「お前は黙ってろ!とにかくもう決めたんだ。これからは、躊躇しねぇで戦う」
途中でミュウの横槍を押しのけて、ルークがハッキリと宣言した。
と、ティアが初めて振り返り、ゆっくりとルークに歩み寄る。
「……人を殺すという事は、相手の可能性を奪う事よ。それが身を守る為でも」
「……恨みを買う事だってある」
ティアの言葉に続けたガイの暗い声に、リスティアータはピクリと肩を震わせた。
「あなた、それを受け止める事ができる?逃げ出さず、言い訳せず、自分の責任を見つめる事ができる?」
「…お前も言ってたろ。好きで殺してる訳じゃねぇって」
ティアの真っ直ぐな瞳から目を逸らして答えたルークは、ティアの横を過ぎて皆に、改めて言った。
「……決心したんだ。みんなに迷惑はかけられないし、ちゃんと俺も責任を背負う」
「…いいのでないかしら?」
ふと口を開いたリスティアータに、一番驚いたのはルークだった。
俯いていた顔をバッと上げ、リスティアータを見る。
「ルーク本人が戦うと…『生きる為に』戦うと決めたと言っているのだし、これ以上この場でいくら言葉を重ねても、何も変わらないし、分からないと思うわ」
「……でも……」
「それもそうですね。……ルークの決心とやら、見せて貰いましょう」
リスティアータの言わんとしている事を理解しながらも、心配の色を隠せないティアを遮って、ジェイドがそれを認めた。
そうなってしまえばティアに言える言葉などなく、彼女は口を噤んだ。
「無理するなよ、ルーク」
ガイにポンと軽く肩を叩かれ黙ってただ頷いたルークの瞳は、未だゆらゆらと揺れている。
それは紛れもない『迷い』。
しかし、それを振り切るように、ルークは先を歩く皆に駆け寄った。
執筆 20081024
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