Metempsychosis
in Tales of the Abyss

女性恐怖症

一行が街道に出て暫く歩いた頃、イオンが突然ガクンと膝を落とした。
荒い呼吸に、彼の具合が良くないことはすぐに知れた。

「おい、大丈夫か」
「イオン様、タルタロスでダアト式譜術を使いましたね?」
「ダアト式譜術って、チーグルのトコで使ってたアレか?」
「すみません。僕の体はダアト式譜術を使うようにはできていなくて…。随分時間も経っているし、回復したと思ってたんですけど」

肩で息をしながらイオンが言うと、ジェイドが微かに嘆息した。

「少し休みましょう。このままではイオン様の寿命を縮めかねません」

それを聞いて、リスティアータは椅子を降りてイオンに差し向けた。

「イオン様、私の椅子に」
「え?ですが…」
「私なら大丈夫です。今はお体を優先して下さい。ね?」
「…はい、すいません」

申し訳なさそうに謝ったイオンに、リスティアータは首を傾げる。

「あら、謝られる理由がないのですけど?」
「あ…そう、ですね。ありがとうございます、リスティアータ様」
「はい、どう致しまして」

そんな2人の微笑ましいやり取りを、片や羨ましそうに、片や複雑そうに見ている者が2人。

「2人とも、行くわよ?」
「あ、ああ」
「………」
「おい、ルーク?」

ティアに呼ばれて我に返ったガイは、沈んだ様子で地面を見ているルークの肩を叩く。

「!…あ?」
「どうかしたのか?」
「ん…別に、何でもねぇよ」
「……?」

プイッとそっぽを向いたルークは、スタスタと先に歩き出した。

ガイはその様子に違和感を感じながらも、先を歩いていた皆がこちらを見ているのに気づいて再び歩き出せば、その違和感は忘れてしまったのだった。



少し進めば休憩に向きそうな場所を見つける事ができた。

そうして休めば話は自然と経緯や自分達についての説明になる。
ジェイドの話を聞き終えたガイは神妙に頷いた。

「…戦争を回避する為の使者って訳か。でも何だってモースは戦争を起こしたがってるんだ?」
「それはローレライ教団の機密事項に属します。お話しできません」
「何だよ、ケチくせぇ…」
「あら、理由は簡単よ?」

イオンの隣でクロを撫でていたリスティアータが話に加わると、ルークはギクシャクと顔を背ける。
そんなルークに再び違和感を感じつつ、ガイが聞き返した。

「簡単って?」
「リスティアータ様!」

口を開こうとしたリスティアータに不安を覚えたのか、イオンが大きな声を出した。
珍しい事に皆が驚いたが、リスティアータは苦笑する。

「それは…」
「分かっています、イオン様」

懇願するように眉を下げたイオンに宥めるように言ったリスティアータは、ガイの方を向く。

「私達の口からは言えないけれど、考えてみればすぐに分かると思うわ」
「考えれば?」
「ええ」

リスティアータの意味深な言葉に考えを巡らせたのは、何もガイだけではなかった。
静かに話を聞いていたティアもまた、持ち得る情報をもとに考えていた。

実際、彼女が一番答えに近い位置にいるだろうが、だからこそ見えないものでもあった。

「理由はどうあれ、戦争は回避すべきです。モースに邪魔はさせません」

最後にハッキリと言ったジェイドの言葉に、ガイはやれやれと溜息を吐く。

「ルークもえらくややこしい事に巻き込まれたなぁ…」
「ところで、あなたは……」

イオンが訊けば、ガイがそういえば、と立ち上がった。

「自己紹介がまだだっけな。俺はガイ。ファブレ公爵のところでお世話になってる使用人だ」

爽やかに名乗ったガイに、イオン、ジェイドと握手をしていき、自然とティアも近づいて手を差し出した。

が。

ビョッと勢いよく離れられた。

「………………何?」
「…………ひっ」

見るも無残な怯えように、ティアもイオンも掛ける言葉が見つからない。
先程の爽やかさは何処。

「………ガイは女嫌いなんだ」
「…と言うよりは、女性恐怖症のようですね」

ルークの語弊ある説明をフォローした訳ではないだろうが、面白そうに目を光らせていたジェイドが言うと、未だ微かに震えながらガイは頷いた。

「わ、悪い…。キミがどうって訳じゃなくて…その……」
「私の事は女だと思わなくていいわ」

明らかに無茶な事を言ってガイに近づくティア。

飛び退くガイ。

更に近づくティア。

もっと飛び退くガイ。

ティアが諦めるまで終わらなそうな攻防は、すぐに終わりを告げた。

「いくら何でも無理じゃないかしら。ティアは可愛い女の子だもの」
「えっ!」

にっこり言ったリスティアータの言葉に、ティアがボッと顔を染めたから。

「そ、そんな、リスティアータ様!わ、私は軍人でっ、そのっ」
「あら、ティアは可愛いわよ?」
「〜〜〜〜〜〜っ!」

何がおかしいのかと不思議そうに首を傾げるリスティアータに、最早言葉も出ないティアの向こうでは、もう誰だか解らない程にガッタガタと震えているガイ様が。


---------…爽やかさは、何処。




執筆 20081018




あとがき

コミカル路線は書きやすいですね。
ヘタレなガイ様とか、書いてて楽しかったです(笑)
あ、顔触るの忘れてた。

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