奇襲に次ぐ奇襲
腕を力一杯振り下ろしたルークは、椅子を倒して床に叩き付けられたリスティアータを、呆然と見ていた。
簡単、だった。
簡単に吹き飛んだリスティアータは、殴った筈の腕に殆ど衝撃を感じない程、本当に殴ったのか信じられない程…軽かった。
「「リスティアータ様っ!」」
「にぅ!」
同じ部屋でルーク達の話を聞いていたティアとアニスが慌ててリスティアータに駆け寄り、リスティアータと共に床に投げ出されていたクロもまた、心配そうに彼女の顔に擦り寄っている。
「…気を失っているけど、頬が腫れる位だと思うわ。今治癒術をかけるわね」
「ふぇぇ…よかったぁ…じゃぁ、誰か呼んできますね。医務室に運んで貰わなきゃ」
「ええ、そうね。お願い」
リスティアータの具合を確認した2人の会話も、ルークにはどこか遠い。
アニスが走って部屋を出ると、ティアが早くも赤く腫れ上がりだしたリスティアータの頬に治癒術を掛ける。
それが終わってしまえば、部屋は重苦しい沈黙だけが支配した。
「-----…あなた、最低ね」
「っ!」
リスティアータを殴った自分の手を見つめていたルークは、振り向きもせずに言われたティアの言葉に歯を食いしばり、手を握り締める。
でも、突き刺さる言葉よりも、微かに殴った感触が残る手の方が、ずっと…ずっと痛かった。
ガタガタという音と、それに合わさるように体に伝わる振動に、フィエラの意識はゆっくりと浮上した。
「…………ん…?」
「!…リスティアータ様、大丈夫ですか?」
微かな違和感を感じる頬に手を添えて体を起こせば、それに気付いたイオンが声を掛けて来た。
「…イオン様?…ここは…」
「馬車の中です。実は、あれから暫くして…その…魔物が、タルタロスを襲撃して来たんです」
首を傾げたリスティアータに、イオンはとても言いにくそうに説明する。
「魔物が…」
「はい。神託の盾と六神将も一緒でした」
「…それで、今は何処かへ向かっているんですか?」
「…いえ、もう用事は済んでいて、今はタルタロスへ戻るところらしいです」
「あら、そうなんですか?」
いくら気絶していたとはいえ、その間に随分と状況は変わってしまっているらしい。
リスティアータがキョトンとまた首を傾げた時、ゆっくりと馬車が停まり、少ししてドアが開かれた。
「導師イオン、到着しましたので…」
「リグレット?」
「リスティアータ様!お加減は如何ですか?どこか痛みなどは、」
聞こえてきた覚えのある声に名前を呼んでみると、リグレットは心配そうに訊いてきた。
「いえ、ありません。大丈夫です」
やんわりと微笑んで返せば、リグレットは安心したようにホッと息を吐き出し、再び軍人然とした態度に戻る。
「導師、リスティアータ様、タルタロスに着きましたので、部屋までお連れします」
そう言われて大人しく着いていくと、タルタロスの昇降口前で困惑した様子の兵士がリグレットに敬礼した。
「何事だ」
「はっ!実は、タルタロスが非常停止したらしく、左舷昇降口以外開かなくなってしまったようで…」
「非常停止だと?………」
兵士の言葉にリグレットは眉を顰め、少し考え込む。
中で何かあったのだろうが、しかし、何時までもここにいる訳にもいかない。
「左舷昇降口に向かう」
「はっ」
少し歩いて左舷昇降口に着くと、リスティアータは改めてタルタロスは静まり返っていると感じた。
あれから中はどうなったのか。
そう思うと自然と手を強く握り締めてしまう。
「昇降口を開け」
「了解」
リグレットの指示で、兵士が階段を下ろしてドアの前に向かう。
そして兵士が開いたドアの向こうで見たものは、何やら丸っこいフォルムの水色の…何か。
そして。
「おらぁ!火ぃ出せぇっ!」
威勢のいい声と同時、顔面に吹き付けられた炎に、兵士は堪らず階段から転がり落ちた。
リグレットがすぐさま銃口を昇降口に向けるが、その時には昇降口から高く跳んだジェイドがリグレットに向かって槍を投げ降ろしていた。
その攻撃を俊敏な動きで避けたリグレットだったが、それはジェイドの計算通りの動き。
地面に突き刺さった槍はすぐに消え、銃を構えようとしたリグレットの首筋に突き付けられていた。
「…さすがジェイド・カーティス。譜術を封じても侮れないな」
「お褒め頂いて光栄ですね。さぁ、武器を棄てなさい」
そうして場が膠着した時、武器を手放したリグレットと兵士は動きを制限され、ジェイド達の奇襲は成功した…かと思われた。
「ティア!譜歌を!」
「ティア…?ティア・グランツか…!」
「リグレット教官!」
リグレットの存在を知ったティアが動きを止め、彼女の後ろからライガが現れるまでは。
執筆 20081018
あとがき
早くタルタロスから出たい!!
そう思ったので、襲撃されるあたりはガッツリ削りました。
それにしても、自分の書く戦闘シーンは…………へぼっ( ̄□ ̄;)!!
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