Metempsychosis
in Tales of the Abyss

交渉

ルークが話を聞く事を決めた。
呼ばれたリスティアータが先程の部屋に入ると、それを待っていたジェイドが説明を始めた。

「昨今、局地的な小競り合いが頻発しています。恐らく、近いうちに大規模な戦争が始まるでしょう。ホド戦争が休戦してから、まだ十五年しか経っていませんから」
「そこでピオニー陛下は、平和条約締結を提案した親書を送る事にしたのです。僕は中立の立場から、使者としての協力を要請されました」

そう続けたイオンに、ルークが一番訊きたかったのだろう疑問を口にする。

「それが本当なら、どうしてお前達は行方不明って事になってんだ?ヴァン師匠は、お前達を捜しに行ったんだぜ」

いや、疑問と言うより、【大好きなヴァン師匠が急に帰らなくならなくなってしまった原因】に対する文句が言いたかったようだ。

その事に未だ拘っている様子のルークに、イオンは気まずそうに眉を下げ、リスティアータは「あら、そうなの?」と言って、キョトンと首を傾げた。

「それはローレライ教団の内部事情が影響しているんです」
「ローレライ教団は、イオン様を中心とする改革的な導師派と、大詠師モースを中心とする保守的な大詠師派とで、派閥抗争を繰り広げています」
「モースは戦争が起きるのを望んでいるんです。僕はマルクト軍の力を借りて、モースの軟禁から逃げ出して来ました。その時に僕がリスティアータ様に協力をお願いして、一緒に…」
「導師イオン!」

ジェイドの解説を間に挟みながらのイオンの言葉を遮ったのはティアだった。
彼女は常より強い口調でイオンに言い募る。

「何かの間違いです。大詠師モースがそんなことを望んでいる筈がありません。モース様は預言の成就だけを祈っておられます」

それを聞いたリスティアータの眉が酷く顰められたが、ほんの一瞬の変化に気付いた者はいなかった。
それより先にアニスが目に見えて萎れた表情をしたので、皆の視線はそちらに向かったからだ。

「ティアさんは大詠師派なんですね。ショックですぅ……」
「わ、私は中立よ。ユリアの預言は大切だけど、イオン様の意向も大事だわ」

アニスの言葉にティアは慌てて言い繕ったが、リスティアータの内心は暗く淀んでいく。

【大切】と【大事】……一見同じような意味を持ち、同位にあると思える言葉。
しかし、それは決して同位にある言葉ではないと、【大切】の方が上位にある言葉だと、リスティアータは思っている。
だから、ティアが無意識に言ったのだろう言葉も、イオンより預言の方が【大切】なのだと、リスティアータには聞こえた。

と、そこまで考えて、ふと自分の内に渦巻く暗い感情に気付く。
きっと聞きたくない名前を聞いた所為だろう。
八つ当たりのような感情を抱いてしまった自分に、リスティアータは苦笑した。

「おーい!俺を置いてけぼりにして、勝手に話を進めるな!」

むくれた子供のようなルークの大声に、リスティアータは話に意識を戻す。

「ああ、すみません。あなたは世界の事を何も知らない『おぼっちゃま』でしたねぇ」
「……なんだと」

呆れたように---実際呆れているのだろうが---言ったジェイドの言葉に含まれた揶揄に、ルークのこめかみがヒクつく。

「教団の実情はともかくとして、僕等は親書をキムラスカへ運ばなければなりません」
「しかし我々は敵国の兵士。いくら和平の使者といってもすんなり国境を越えるのは難しい。ぐずぐずしていては、大詠師派の邪魔が入ります」

一瞬、まだ納得していないティアが反論しようとしたが、結局何も言わずに俯いた。
そんな様子に気づきながらもジェイドは続けて言った。

「その為にはあなたの力……いえ、地位が必要です」

繕う事なく放たれた言葉は、見事な位にルークを逆撫でした。

「おいおい、おっさん。その言い方はねぇだろ?」

しかし、今までならば激昂して怒鳴っていたルークは、今の状況…否、今自分が立っている【その】位置に気付き、椅子にふんぞり返って嗤った。

見えないリスティアータにも解る。
とても傲慢で、とても厭な笑みだった。

「それに、人にものを頼む時は頭下げるのが礼儀じゃねーの?」
「そういう態度はやめた方がいいわ。あなただって戦争が起きるのは嫌でしょう?」
「うるせーな。……で?」

ルークの言い様にティアが注意するが、ルークは気にしない。

彼は今、一つの欲求で頭が一杯なのだから。

「やれやれ」

顎を杓って促したルークに、ジェイドは呆れた嘆息をして、その場に膝を着き、深く頭を下げた。

「師団長!」
「どうか、お力をお貸し下さい。ルーク様」

至極あっさりと頭を下げたジェイドに、満足気に嘲笑を含んだルークが呆れて見せる。

そして、次の瞬間、


「あんた、プライドねぇなぁ」


リスティアータから、総ての表情が消えた。




再執筆 20081011

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