考える時間
ルーク達と話した部屋から出たフィエラは、自分にあてられた部屋に戻っていた。
甲板に出ても良かったのだが、甲板は風が強い。
膝の上で未だにすやすやと眠るクロがぴゅーっと簡単に吹き飛ばされる様が想像出来てしまったので、何となく止めておいた。
部屋に戻ってから暫くすると複数の足音が聞こえ、ドアの前に止まるノックがされた。
「どうぞ」
誰何もなく応えれば、アニスを先頭にルークとティア、ミュウが入ってきた。
「リスティアータ様、失礼しまぁす♪」
「あら、いらっしゃい。アニスが2人を案内しているの?」
「はい!」
「そう。頑張ってるのね」
「頑張ってますよぅ♪」
「…リスティアータって、偉いのか?」
2人のちょっと意味深に聞こえなくもない会話に首を傾げつつ、ルークは今まで気になって仕方がなかった事を訊いてみた。
本人がいるのだから、本人に訊くのが一番手っ取り早いだろうと思って。
しかし、それを口にした途端にアニスはぎょっとし、ティアには物凄い目で睨まれた。
「ルーク!リスティアータ様に何て口を!」
「あら。いいのよ、ティア」
ルークに注意するティアを遮ったリスティアータは、にこやかに微笑み、ルークの疑問に答えた。
「先程の質問だけれど、私自身は偉くも何ともないわ」
そう、ケロッと言われた台詞に、アニスとティアは思考が停止し、ルークは「へー」っと納得したようなしてないような微妙な頷きを返した。
が、
「な、何を仰っているんですか!?リスティアータ様!」
「そうですよぅ!」
「ぁあ?何だよ。偉くないんじゃねぇのか?」
一拍の後に慌てだした2人に、ルークは訳解んねぇと眉を寄せる。
それに再び答えようとしたリスティアータを遮って、アニスが口早に説明を始めた。
「あのですねぇ、リスティアータ様は『預言を宿す者』と言われていて、導師イオンと同様にとっても尊い方なんですよ!」
「へぇ…それで?」
「え…はぅぅ…ごめんなさい、ルーク様。これ以上はローレライ教団の最重要機密なので、私達も知らないんですぅ…」
簡潔かつ解りやすい説明に(訊いた本人なのに)素っ気なく頷いたルークが続きを求めると、アニスが申し訳なさそうにルークを上目遣いで見る。
「なんだよ。つまんねぇなぁ」
「ふみゅぅ」
「ルーク!そんな言い方は」
「うっせーなぁ!いちいちうぜーっての!」
アニスが可愛さを押し出しつつ落ち込んで見せると、それを真に受けたティアがルークに再び注意しようとする。
それに毎度のように怒鳴り返したルークを、リスティアータがやんわりと窘めた。
「あら。そんな事を言うのは良くないと思うわ。怒って貰えるというのは、とても幸せな事よ」
「はぁ?」
リスティアータの言葉に、言われたルークは勿論、ティアとアニスもまた不思議そうに目を瞬かせる。
「何で怒られるのが幸せなんだよ。ガミガミ言われたってうるせーだけで、うぜーっつーの」
「ふふふ。確かに言われてる時は良い気持ちにはならないでしょうけど、怒って貰えるのは、幸せな事よ」
尤もなルークの反応にリスティアータは笑みを零した。
「だって、怒られると言うことは、怒ってくれる人が傍にいるという事でしょう?ちゃんと自分を見て、注意してくれる人がいるのは、とても幸せな事よ。何をしても誰も怒らないと言うことは、誰も傍にいない…誰も、自分を見ていないという事だもの」
そう柔らかく放たれた言葉は、不思議なくらいストンとルーク達の心に響いた。
「ね?」
「まぁ…な…」
小首を傾げたリスティアータに、ルークは何となく居心地悪そうに顔を背けた。
それから少し雑談をしてから、3人と1匹はリスティアータの部屋を出て行った。
ティア達は気づかなかったようだが、結局リスティアータが自分の言葉を覆す事は無いままに。
「本当に、【私自身】は偉くも何ともないのだけれど…ねぇ?クロ」
「にぅ」
誰も居なくなった部屋でフィエラは誰にともなく呟くと、肩に登って顔を擦り寄せて来たクロを撫でた。
再執筆 20081001
あとがき
いつになく短いです。
でも他に切りどころが無かったので、そのままにします。
因みに怒られる云々はゆにしあの持論だったり。
勿論、怒られるにも時と場合と相手で様々でしょうが、純粋な意味で【怒る】【怒られる】と言う事自体は【悪い事】ではないと思います。
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