空白の間 ーside Guyー
イオンと怪我をしたティアの体調を考慮して、野宿をする事になった。
すっかり陽も落ち、焚き火の朱が時折揺れる。
それを囲んで座っている面々から外れるように、木へと背を寄りかからせて1人立っていたガイは、先程(本人に自覚があるかは解らないが)初めて見るかもしれない程に頼りなさ気な表情をして自分と話しに来たルークを見た。
チラリ、チラリと、日頃の我が儘坊ちゃんな態度にあるまじき焦れったさでもって、リスティアータの様子を窺っている。
それも今に始まった事ではなく、合流してからずっと、だ。
(俺が合流する前に、彼女と何かあったのか?)
そんな考えが頭を掠めたが、すぐに打ち消す。
彼女がいざこざを起こすようなタイプには見えないし、態度もこれといっておかしな所は見られない。
ルークが一方的に気にしていると言った方が正しいだろう。
(彼女に何かやらかした、か)
まず間違いないだろう結論を出したガイが再びルークを見れば、またチラリとリスティアータを見ていた。
「リスティアータと何かあったのか?」
「!!」
まるっきり子供のような様子に思わず苦笑しつつ直接訊いてみると、ルークはビクッと肩を跳ね上げ、幾らか上にあるガイの顔を見上げる。
「な、なんだよ、急に」
「いいや?だって、さっきからずっとリスティアータを気にしてるだろ?」
「…………」
図星を突かれたルークはぎこちなく目を背けた。
叱られるのを恐れる子供のような表情に、ガイはまた苦笑した。
「どうしたんだよ、ルーク?」
改めて訊いたガイの声は、本人にその自覚がなかっただろうが、まるで兄のような優しい響きでもってルークに届いた。
その優しさに後押しされるように、ルークがおずおずと口を開く。
「………ガイは、さ」
「うん?」
「…………女、殴った事…あるか?」
「は?」
ガイが思わず間の抜けた声を上げると、ルークは再び気まずそうに顔を背けた。
「おい…ルーク、まさか…」
「…………」
無言は解りやすい返答だった。
その様子にガイの顔が一瞬引きつり、すぐに落ち着くために息を吐くと、ルークはそれを嘆息ととったのか、ますます気まずそうにしている。
「殴ったのか?彼女を」
「っ………」
ルークは黙って頷く。
「…どうして、殴ったんだ?」
「…よく…わかんねぇけど…怒られて…、頭きて…」
ボソボソと呟く内容は端的だったが、長年ルークと過ごしてきたガイには充分な説明だった。
怒られた理由は解らないが、叱られて逆ギレしたんだろう。
「…知らなかったんだ…。…女があんな…軽いだなんて…」
黙ってしまったガイに言い訳するように、ルークはボソボソと呟く。
「そうか」
「…………」
「それで?」
「…それで?って、何だよ?」
自分では全て話したつもりのルークが、続きを求められてムッとしながらガイを見ると、
「どうしてリスティアータを気にしてたんだ?」
と、常と変わらない態度で再度訊かれて、ルークは再び俯いた。
「べ、別に…何となく…」
「何となく?」
「………」
「悪い事したと思ってるなら、謝ればいいだろ?」
「!?」
てんで素直じゃないルークに、いよいよでもって呆れた嘆息をしたガイが言えば、ルークはバッと顔を上げる。
「謝る?」
「そうさ。悪かった、ごめんって言えばいい。ちゃんと謝れば、彼女なら許してくれるさ」
「………」
今度は考え込むように黙ったルークの頭を、ガイはぐしゃぐしゃと撫で回した。
「のわっ!何すんだよっ!」
「考え込むのもいいが、今日はもう寝た方がいい。疲れてるだろ?」
「………ああ」
焚き火の方へと歩き出したルークを見送りながら、ガイは重い溜め息を吐いた。
ルークに対してというよりは、自分に対して。
屋敷から飛ばされて以降、ルークは色々な経験をしたんだろう。
それこそ屋敷では絶対に知る事のなかっただろう色々な経験を。
知らなかったそれらに戸惑うのは仕方がないし、当然だと思う。
しかし、女性を…リスティアータを殴った事は違う。
それは屋敷の中であっても知ることの出来た事だ。
なのに、ルークが鍛錬をしているのを知っていて、自分はそれをしなかった。
自分が教える事の出来た、当然の事だったのに…。
彼女を殴った時の感想を漏らしたルークを思い返し、罪悪感が込み上げる。
自分の怠慢を突きつけられたようで、ガイは1人、自嘲した。
執筆 20081104
あとがき
ガイ視点?
ねぇ、ちゃんとガイ視点?
頑張ったつもりが、途中誰視点だか訳解らない感じにっ!orz
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