Metempsychosis
in Tales of the Abyss

突然の捕縛

今度こそ用事を終えて、一同はチーグルの住処を出た。
しかし、歩き出して10分もしない内に、ティアがルークに言った。

「ルーク、もう少しゆっくり歩かない?ミュウが可哀想よ」
「フン!何で俺らがそいつに歩く速さを合わせてやらないといけねーんだよ」

後ろをちょこまかと小さな足を必死に動かしてついて来るミュウを鑑みて言ったのだが、ルークは取り合わずにスタスタと自分のペースで歩き続ける。
知ったことかと顔を背けたルークにティアが更に言い募ろうとすると、ミュウが変わらず必死に歩きながらティアに言った。

「ティアさん、大丈夫ですの。ちゃんとついて行くですの」
「ほらな。こいつもこう言ってんじゃねぇか」

口を出してきたミュウにピクリと眉を動かしたが、踏んだり蹴ったりせずにルークは話を切り上げた。
因みに踏んだり蹴ったりしなかったのは、単に自分に都合が良かったからだ。

イオン相手に垣間見れた不器用な優しさの欠片もない態度に、ティアは短く溜息を吐く。

「どうしてそんなに意地悪なの?ちゃんとミュウも仲間として接してあげるべきだと思うわ」
「しょーがねーだろ!こいつウゼーんだから!」

と、またしても2人の口論が始まってしまった。
そこへ、止せばいいのにミュウが仲裁を試みる。

「喧嘩しないで下さいですの〜」

更に止せばいいのにルークの足にしがみついたりなんてしたものだから、言うまでもなくルークは苛立った。

「るせーっつーの!大体お前がライガ達の住処を火事になんかしなけりゃ、こんな事にはならなかったんだろーが!ライガ達がここに来ることもなかったし、全部上手くいってたかもしれねぇんだぞ!ぁあ?分かってんのか!?」
「みゅう…」

これまでの鬱憤をぶちまけるかのように怒鳴り散らしたルークに、ミュウは悄々とうなだれた。
言ってる事はちゃっかり的を射ていたが、イオンが(これぞ正に)仲裁をしてルークを宥める。

「まぁまぁ。もうそれぐらいで良いじゃないですか」
「そうよ。ルーク、大人気ないわ」
「……わーったよ」

次いで言われたティアのトドメとも言える言葉に、ルークは渋々頷いた。
と、

「さて、落ち着いたようですので、先を急ぎましょうか」

さも自分が仲裁したかのようなタイミングでひたすら傍観していたジェイドが纏めると、ルークが文句を言いたげにジェイドを半眼で見る。

「こいつ……」

しかし、二の句は告げなかった。
ルークが何を言った所で、それを気にするジェイドではないから。
それから…

「ルーク、少し声を抑えて貰ってもいいかしら?クロがおねむみたいなの」

リスティアータがそう言ってきたから。

言われて見れば、リスティアータの膝の上に座っていた筈の黒いチーグルは、クルリと体を丸めてすっかり寝の体勢に入っていた。
その見た目は最早黒い毛玉だ。
くりっとしていた大きな瞳が眠気に潤み、ウトウトとするその様を見て、ティアがうっとりと頬を染める。

「私もルークと沢山お話ししたいのだけれど…」
「……もういい」

本心で照れもなく言ってきたリスティアータに、ルークはうっと返事に詰まって、照れ隠しで素っ気なく答えた。



クロが寝ているのが良かったのか何なのか、それ以降ルークとティアの口論もなく進む事が出来た。
そして漸く森の出口が見える所まで来た時、先頭を歩いていたルークが出口付近に誰かが立っている事に気付く。

「お?あの子、お前の護衛役じゃないか?」
「はい、アニスですね」

訊いてきたルークにイオンが答えると、向こうもこちらに気づいたらしく、アニスが駆け寄ってきた。

「お帰りなさ〜い★」

マルクト兵を数人連れて。

迅速な動きで囲まれたルークとティアだけでなく、イオンも驚いてジェイドを見た。

「ご苦労様でした、アニス。タルタロスは?」
「ちゃんと森の前に来てますよぅ。大佐が大急ぎでって言うから、特急で頑張っちゃいました♪」
「おい、どういう事だ」

突然の事に緊迫している彼等を余所に、2人はお茶目な会話をする。
ルークが説明しろと言うと、ジェイドは一転、軍人の口調で兵達に指示を出した。

「そこの2人を捕らえなさい。正体不明の第七音素を放出していたのは、彼等です」
「ジェイド!2人に乱暴な事は……」
「ご安心下さい。何も殺そうという訳ではありませんから。……2人が暴れなければ」

無論、それを黙って見過ごせるイオンではない。
何とか取りなそうと口を出せば、ジェイドはやんわりと答えた。

しかし、最後に殊更ゆっくりと言われた言葉に、捕まれた腕を振り払おうとしていたルークは動きを止め、ティアと共に無言の了承を返す。
もとより、彼らにそれ以外の選択肢など最初から有りはしない。

「いい子ですね。ーーーーー連行せよ」

にっこり微笑んだジェイドの指示により、連行された2人を見送って、リスティアータは隣で不安げに立ち尽くすイオンに微笑んだ。

「イオン様」
「リスティアータ様…」
「大丈夫ですよ」

その確信めいた言い様に、イオンは頷きを返すと、彼らに続いて歩き出した。




再執筆 20080925

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