Metempsychosis
in Tales of the Abyss

黒い毛並みのチーグルの仔

ある種、当然と言えるリスティアータの言葉が重く響き、イオン達が辛そうに、しかし反論出来ずに俯くと、その様子を見ていた長老が言った。

「お二人の心遣いは有り難いが、ミュウを罰しもせずにいては、ライガも、喪われた同族達の家族も納得すまい」
「そう、ですが…」

しかし、と言いた気にイオンは口を開くが、続く言葉が出てこない。
リスティアータや長老の言う事は理解しているだろうが、その返事からはイオンが納得していないのが解る。

それは彼の甘さであり、優しさだとリスティアータは思った。

「無論、永久と言う訳ではない。聞けばミュウはルーク殿に命を救われたとか」

今までどこか他人事で話を聞いていたルークは、突然の名指しに目を瞬かせた。
が、

「チーグルは恩を忘れぬ。季節が一巡りする間、ミュウはルーク殿にお仕えする」
「俺は関係ないだろ」

聞き捨てならない長老の言葉に、実に嫌そうな、面倒そうな顔で断った。
余りの返答の早さから、じっくり考える必要もないくらい面倒なのだろう。

「ミュウはルーク殿について行くと言って聞かぬ。処遇はお任せする」

しかし、長老も引かなかった。
と言うか、本人が望む通りにしては、イマイチ処罰にならないのでは?とリスティアータは思ったが黙って聞いていた。

「連れて行ってあげたら?」
「俺はペットなんかいらねっつーの」
「チーグルはローレライ教団の聖獣です。きっとご自宅では可愛がられますよ」
「なら、ガイ達への土産って事にでもするか……」

やはりと言うべきか、真っ先に勧めたティアには速攻で反論したルークだったが、イオンの「御家庭用」の薦めには無碍に断れなかったようで、渋々ながらも頷いた。
のだが、

「お役に立てるように頑張るですの。よろしくですの、ご主人様」
「……やっぱムカつくんだよな、こいつ」

ミュウの挨拶に表情をピキッと歪め、今にも蹴り飛ばしそうな様子で言った。
どうもミュウはルークの勘に障るのが飛びきり上手いらしい。

「さぁ、報告も済んだようですし、森を出ましょう」
「……けっ、偉そうに」

ただただ傍観していたジェイドがサラッと促すと、余裕ある態度が気に食わないのか、ルークが吐き捨てた。

「…失礼ながら、リスティアータ様とお見受けする」
「はい?」

ぶつぶつ言いながらも出口に向かいだした一同に、長老が若干の戸惑いを表しつつリスティアータを呼び止めた。
呼び止められたリスティアータがキョトンとした表情で振り返って膝をつくと、長老が別のチーグルに何かを伝えている。

「あ?何だよ?知り合いなのか?」
「いいえ、初めてよ」
「はぁ?じゃあ何の用なんだよ?」
「……さぁ?何なのかしらね?」

名指しだったからそう思ったのだろうルークにそう訊かれても、心当たりなど皆無なリスティアータが答えられる訳もない。

「突然この様な事を言っては驚かれるだろうが、この仔を連れて行って頂きたい」

そう言った長老の後ろから、先程何か言われていたチーグルと、ミュウより一回りは小さいチーグルがいた。

産まれてからまだ一年も経っていないのだろうチーグルの仔どもは、突然変異なのか、色とりどりの他のチーグル達とは違い、その毛並みが漆黒だ。

「みゅうみゅみゅみゅう」

長老が仔チーグルに何かを言うと、仔チーグルはよちよちと近付いてきた。
そして漸くリスティアータの傍に到着すると、その小さな前足をリスティアータの膝に乗せて、「にぅ」と鳴いた。

かっ……っ!!
「か?」

隣から聞こえた意味不明な声にルークが振り向くと、何故か自分を抱き締めるようにして俯いたまま動かないティアの姿があった。
勿論、ジェイドとイオンは彼女が歓喜に打ち震えているのをそっと放置する。

「あの、何故かお訊きしても?」
「チーグル族にのみ伝わるユリアの遺言、それ以上は言えぬ」

少し申し訳なさそうに言った長老に、リスティアータはぽつりと呟いた。

「…ユリア……」
「リスティアータ様?」

微かにだが眉を顰めたように見えたイオンが声を掛けると、リスティアータはハッとした後「何でもありません」と微笑んだ。

「この仔の名前は何と言うんですか?」

誤魔化すように明るく言ったリスティアータに違和感は無く、彼女が微かに滲ませた嫌悪に気づいた者はいない。
ただ1人、ジェイドだけは、その違和感の無さに【違和感】を感じたが、何も言わなかった。

「その仔はまだ名がない。よろしければ、つけてやって頂きたい」
「そうなんですか?そうねぇ…何が良いかしらね?ティア」
「えっ!?」

突然話を振られて驚いたが、ティアは嬉々として答えた。

「毛並みが黒いので、クロが付くとかわい、いえ、良いのではありませんかっ?」
「まぁ、それは良い考えね」

人はそれを安直と言う。

「では…」

リスティアータは、ふわふわと柔らかい体毛に包まれた小さな仔チーグルを両手で抱き上げて、言った。

「あなたの名前は、クロね」
「にぅー」

再度言おう。

人はそれを安直と言う。

しかし返事をしたらしい仔チーグルは、物凄く嬉しそうであった。




再執筆 20080820

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