Metempsychosis
in Tales of the Abyss

ほっと一息

ズゥンズゥン、と、ライガ・クイーンがその巨大な体躯に相応しい足音と共に立ち去り、足音が聞こえなくなって一拍。

「………………は、」

ルークは知らず詰めていた息を吐くと、その場にぐったりと座り込んだ。
身に迫っていた恐怖から解放されて気が抜けたのだろう。
それはルークに限った事ではなく、ティアもイオンもだが。

ジェイドはそんなルークの横を通り過ぎてリスティアータに歩み寄った。

「……ありがとうございました」

一歩離れた辺りに来た時、振り返る事なくリスティアータが言った。

「…何のことです?」
「彼を止めていて下さって」
「いえいえ。お陰で私は楽が出来ましたので」

とぼけた返事を返したジェイドをリスティアータは再び目を閉じて振り返り、クスクスと笑った。



再びジェイドに手を引かれてイオン達の方へと近づくと、何やらルークとティアが口論しているようだった。
それを見て随分と仲良しだと微笑んだリスティアータのズレた思考はさておき、

「アニス!ちょっとよろしいですか」
「はぁい、大佐ぁ♪お呼びですかぁ?」

空洞の入口に向かってジェイドが呼ぶと、待ってましたとばかりにアニスが駆け寄ってきた。
そしてジェイドはアニスに何やら耳打ちをしているのだが、一番近くにいるリスティアータにさえ聴こえなかった。

軍人ならではの方法なのかもしれない。
やはり軍人は凄いのだと、納得したようにうんうんとひとりリスティアータは頷いた。

「えと……わかりました。その代わり、イオン様をちゃんと見張ってて下さいね」

耳打ちの内容を了承したアニスを見送って、ジェイドは未だに喧嘩を続けていたルーク達に近づく。
ジェイドが足音を立てていないので、リスティアータも何となく可能な限り足音を消して続いた。

「冷血な女だな!」
「おやおや、痴話喧嘩ですか?」

飽きる所か更に激化しそうな口論に、ジェイドが呆れたように水をさした。

「誰がだ!」
「カーティス大佐。私達はそんな関係ではありません」

過剰に反応したルークと、冷静に(ある意味失礼だが)少し迷惑そうに言ったティアに、ジェイドはにっこりと微笑んだ。

「冗談ですよ。それと私の事はジェイドとお呼び下さい。ファミリーネームにはあまり馴染みがないものですから」

ルークの睨みをジェイドが軽〜く流した所で、眉を八の字にしたイオンが近づいてきた。

「………ジェイド…リスティアータ様…すみません。勝手な事をして」
「あなたらしくありませんね。悪い事と知っていて、この様な振る舞いをなさるのは」
「始祖ユリアと共にローレライ教団の礎であるチーグルの不始末…僕が責任を負わなくてはと……」
「その為に能力を使いましたね?医者から止められていたでしょう?」

覆い被さる言葉に、何一つ反論出来ずにイオンはうなだれて謝るしか出来ない。

「………すみません」
「しかも民間人を巻き込んだ」
「…おい。謝ってんだろ、そいつ。いつまでもネチネチ言ってねぇで許してやれよ、おっさん」
「まぁ…ふふふ」

萎れたように肩を落とすイオンを見かねたのか、自分達が引き合いに出されたからか、ルークが横から口を挟んだ。

殊更力を込めて言われた最後の言葉に、リスティアータは堪えきれずに笑ったが、おっさん呼ばわりされた当人、ジェイドとティアは、意外だという顔でルークを見る。

「おや、巻き込まれた事を愚痴ると思っていたのですが、意外ですね」
「あら、ルークさんはとても優しい方ですよ」
「なっ!?何言ってんだっ!!」
「?」

ニコニコと微笑みながらリスティアータが言った途端、真っ赤になったルークに何故か猛然と怒鳴られてリスティアータは首を傾げた。
とは言え、誰がどう見ても照れ隠し。
リスティアータ以外は生温く見ていた。

「まぁ時間もありませんし。これぐらいにしておきましょうか」
「親書が届いたのですね?」
「そう言うことです。さぁ、とにかく森を出ましょう」

それを聞いて表情を明るくしたイオンにジェイドが促すと、先程からちまちまと足元で動いていた鮮やかな水色のチーグルが、ぴょこっとルークの頭に飛び乗った。

「駄目ですの。長老に報告するですの」
「……先程から思っていたのですが、チーグルが人間の言葉を?」
「ソーサラーリングの力です。それよりジェイド。一度チーグルの住処へ寄って貰えませんか」
「わかりました。ですが、あまり時間はありませんよ」

あまり驚かずに訊いたジェイドに答えると、イオンはジェイドを仰ぎ見て言った。

2人の会話をよそに、頭に乗られて怒ったらしいルークは、それはもうグリグリとチーグルを踏みつけている。
そんな様子を聞いていて、リスティアータがぽつりと呟くまでは。

「あまり強く踏んでしまうと、出ちゃうのかしら?」
「げっ!!」

何が、と具体的に言わなかったのが逆に想像を煽ったらしく、ルークは速攻で足を退かし、悔し紛れにチーグルを蹴っ飛ばした。

敢えて言うならば、チーグルはそれはもうよく飛んでよく弾んで遠くまで転がった。




再執筆 20080915

プラウザバックでお戻り下さい。

Back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -