025
空が茜色に染まる。
日が暮れようとしている。
大きな窓越しのそれを、独り、フィエラは眺めていた。
とりとめもなく、考える。
どんな物語にも始まりがある。
どんな物語にも終わりがある。
では、
この『物語』の始まりは、いつなのだろう?
オールドラントが惑星としての産声を上げた時?
オールドラントに生命体が生まれた時?
生命体が人類へと変化を遂げた時?
人類が文明を築き始めた時?
文明が発展した時?
それとも…
一組の男女が愛し合った時?
ユリア・ジュエが産まれた時?
ユリア・ジュエが譜術を学び始めた時?
ユリア・ジュエが希代の天才譜術士として成長を遂げた時?
ユリア・ジュエが、惑星譜術を詠んだ時?
思い至ってくすりと嗤う。
何を、誰を、と言うでもなく、
ただ、ただ、嗤う。
ふっと一息吐き、再び空を見上げた。
陽はその殆どを沈めたのか、夕闇が鮮やかだった茜色を覆い尽くそうとしていた。
「始まるのね…」
─…私の『物語』が。
聞く者のいない小さな呟きは、広い空間に浮かんで消えた。
執筆 20160611
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