Metempsychosis
in Tales of the Abyss

012

翌日、ヴァンに命じられた内容に、リグレットは顔を歪めた。
露骨なそれを、ヴァンは嗤うのもまた腹立たしい。

「何故、私がそんなことを?」
「副官となったからには、務めは果たしてもらおう」
「・・・・・」

無言で視線を下げると、ヴァンの執務机の上には箱が置かれている。
重さは分からないが、大きさはリグレットが片手で持てるか否か程度。
命令は、その箱を届けること。
それは、別に良い。
問題は、その相手。

「…リスティアータの顔など、見たくもない」
「聞こえなかったか?命令だ」
「会えば殺すわ」
「殺せば良い。私を殺す事は叶わなくて良いのなら、な」
「…っ」

話は終わりと背を向けたヴァンの背を睨み、乱暴に箱を持って執務室を出た。


苛立ちを隠して廊下を進む。
向かった先は、リスティアータの鳥籠…ではなく、神託の盾本部の自室だった。

部屋に入ると施錠し、箱をテーブルに置く。
封をされていない箱を開くのに躊躇いはなかった。
何かヴァンとリスティアータ、更には預言に関する手掛かりがあればとの考えがあったからだ。
重さと中身の据わりからすると書物だろうとの読み通り、箱の中には10冊の本が入っていた。

1冊1冊手に持って確認する。
童話、詩集、ミステリー、怪談、哲学、歴史など、ジャンルは様々だが、手掛かりはひとつも無く。
総ての本を調べ終わった時には、日が傾き始めていた。


鳥籠の扉を叩く。

「どうぞ」

誰何のない無用心さは、護られ慣れた事への甘えの表れだと思った。
ふん、と鼻で嗤う。

「失礼致します」

さっさと済ませようと、遠慮無く扉を開ける。
入室しても礼はしなかった。
どうせ見えてなどいないのだから。

「あら、その声は、リグレットさん?」
「ヴァン総長より、届け物をお持ちしました」

リスティアータ独りの室内を進み、大きなテーブルの上に置いた。

「まぁ、そうなんですか。わざわざありがとうございます。ヴァンさんにも、ありがとうと伝えて頂けますか?」

そんなこと、

「次に会われた時にでも、ご自分でお伝え下さい」

間違っても、例え伝言でも、あの男に感謝など言いたくない。

「リグレットさんは…」
「…何か」
「私が憎いのですね」
「!!」

驚いた。
他人の機敏など気づかぬ愚図と認識していた者が、気づいていたことに、ではなく。

リスティアータが、ふわり、と微笑んだから。

なぜ、そんな風に、心底嬉しそうに、うっとりと笑うのか。
その笑みは、まるで…────

「リグレットさん」
「!…な、にか」
「また、いつでもいらっしゃって下さいね」

言葉に詰まる。
心からの言葉だと分かる。
リグレットが自分を憎んでいると知りながら、何故、そんな事を言える。

得体の知れない恐怖に、リグレットは無言で鳥籠から立ち去った。


どくどくと動悸がする。
それを走っている所為だと目を背け、リグレットはヴァンの執務室の扉を開ける。
ヴァンはピクリとも動かず、執務を続けていて、明らかに戻りの遅かった事に対する咎めすら無かった。
いや、今はそれよりも、

「リスティアータは、何を考えている」

この問いに、ヴァンが手を止めた。

「憎悪を向けられながら、何故笑う」

視線がかち合う。

「…知りたいか」

嗤って訊き返したヴァンに、リグレットはぐっと歯を食い縛った。
知りたいか?
────…あぁ、あぁ。
得体の知れない恐怖に支配されるくらいならば、いっそ、

「答えろ!」

強く睨み据えたリグレットに対する、ヴァンの答えは…────。

「あの方は『    』のだ」

執筆 20160425

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