Metempsychosis
in Tales of the Abyss

011

私は逃げも隠れもしない。
私が憎いなら、殺してみろ。

そう言って嗤った男に続いて、教団の廊下を歩く。
向かう先は聞かされていないが、進むに連れて人気は無くなり、リグレットは訝しげに大きな背を睨んだ。

「…そう睨まずとも、もうすぐ着く」
「!」

考えを当てられた事には驚かないが、予想外に笑った男には驚いた。
この男も笑うのかと。
しかし、間もなく到着した先に、更に驚く事になった。

「…ここは」

張り巡らされた透明な壁。
その先にある巨大な鳥籠。
驚きに足を止めたリグレットに構わずヴァンは先へ進み、据えられた扉を柔らかく叩いた。

「どうぞ」

誰何も無く入室を許す女の声にまた戸惑う。
何故此処に人がいる?
疑問が湧くが、考えている時間はなかった。

「失礼致します」

ヴァンの声が柔らかい。
それにまた驚いて、リグレットは舌を打った。
先程から自分は驚いてばかりだ。

「……リグレット」
「!!」

はっとする。
気づけばヴァンが扉の先でこちらを見ていた。
一瞬躊躇って、鳥籠に足を踏み入れた。
その先で、

「ようこそいらっしゃいました。お忙しいのに、ありがとうございます」
「こちらこそ、美味しい紅茶を御馳走になれるのですから、役得というものですよ」
「まぁ、ふふふ」

和やかに会話する男女。
この、女性は…──────

「時にリスティアータ様」

─────…リスティアータ…?

「…リスティアータ?」
「はい?」

リスティアータ…つまり、『預言を宿す者』。
その意味を理解するのにはかなりの時間を要した。
反対に、理解してからは速かった。

譜銃を抜き、トリガーに指を掛け、セーフティーを外し、トリガーを引く、筈だった。

「ぅあっ」

腕を捕られ背に捻り上げられて呻く。

「そう急がずとも、お前の手間取る相手ではあるまい」

そう耳打ちされて、パッと拘束を解かれた。
痛む腕を抱えて、悔しさに臍を噛んだ。

「…あの?どうかしました?」

戸惑う声にそちらを見れば、椅子に座ったまま、こちらに顔を向けていながら、状況を理解出来ていないリスティアータがいる。
その両目は閉じられていて、一連の攻防など…自らが殺され掛けていたことなど、知る由もないのだろう。
体躯も華奢で、儚く、弱い、護られる事に慣れた女。

「…いえ。何でもありません。それで、今日は私の副官を紹介させて頂きたく思います」
「まぁ、先程のお声の方ですか?」

ぽんと手を合わせる様も、女性的で、可愛らしい。
リグレットには、それがあざとく見えて、顔に嫌悪を滲ませた。

「…リグレットと、申します」

渋々絞り出した声にも、リスティアータはにっこりと微笑む。
露骨な嫌悪にも気付かない、愚図。

「初めまして。私はリスティアータと呼ばれています」

一瞬引っ掛かりを覚えたが、それが何か分からず、興味もなくてすぐに意識から外した。
確かにこんな弱い女であれば、いつでも殺せる。
ヴァンより先に殺しては、騒ぎになってヴァンを殺す前に捕らえられるかもしれない。
それを考えれば、この女は預言への復讐を遂げる最後の仕上げに丁度良いと思えた。

「リグレットさんにお願いがあるんですけれど」
「…何でしょうか」
「お顔、触らせて頂けませんか?」

リグレットはこの日最も顔を嫌悪に歪めた。

「…それは、御命令でしょうか」
「え?いいえ、」
「では、御断りさせて頂きます」
「…そうですか。残念です…」

しゅんと落ち込む様もあざとく見えて、リグレットは視界からリスティアータを除き、ヴァンに向き直った。

「まだ私が居る必要がありますか?」
「…いや、下がって良い」
「失礼致します」

不敵に嗤うヴァンを一睨みし、リグレットは鳥籠を出た。

執筆 20160424

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