違和感に気づく
早朝の一騒ぎの終息は早かった。
一部を除き、異常な程の深い眠りに落ちた一同。
その事実が誰ともなく発覚すれば、残る一部であるジェイドの何時もより深く見える薄ら笑いを見て、そちらに疑惑が向くのは必然だった。
「いやー、予想以上の反応でしたねぇ」
などと軽く宣われたら決定である。
もちろんルーク達は異口同音で批難した。
しかしながら相手は死霊使いジェイド・カーティスである。
薄ら笑いに変化は無く、さも親切心での行いだとばかりに「皆さん、お疲れのようだったので」などと返されれば、ルーク達はぐったりと項垂れるしかなかった。
だめだ、これ以上相手にしたら疲れる……。
ってか、もー疲れた……。
ぐっすり眠らされた筈なのにもー疲れたー。
「皆起きたことだし、朝ごはんにしましょうか」
それまでのやり取りをまるで日常かのように(こんな日常なんて笑顔でお断りである)、まるっと流したリスティアータの一声で、ぐったりと朝食へと移った。
最初に気付いたのは、意外な事にルークだった。
実年齢7歳の視点ならではなのか、アッシュに負けず劣らずのリスティアータ好き故なのか、はたまたその両方か。
とにかく気付いたルークは、しかしその違和感を明瞭に言葉に出来なくて、かといってじろじろ見ているのも悪いし、でも気になるし、でも、でも、と、モヤモヤとしたものを内心に抱いたままに朝食を終えた 。
カチャカチャという僅かな音を立てながら、朝食の片付けをするリスティアータ。
それを率先して手伝いながら、ルークはやはり違和感を感じてちらちらと様子を窺って、別方向にもちらちらと視線をやる。
一見、いつも通りなように見える。
でも、やっぱりいつもと違う。
何かは分からないが、何かが。
その様子は、何だか……、
「けんか……?」
「、え?」
唐突な呟きだったからか、ピクリと肩を震わせたリスティアータは、片付けの手を止めてルークを振り返った。
「どうかしたの?」
「あ、いや、」
思わず口から零れただけに、ルークは訊かれても返答に困る。
何でもない、と言えば済む…のだけれども…。
「えっと…」
「……」
スプーンを片手にもごもごと口篭るルークの様子少し待っていたリスティアータは、水に濡れた手をタオルで拭うと、ちょっとだけ背伸びをして、ふわふわとルークの頭を撫で始めた。
「リスティアータ…?」
戸惑うルーク。
でも心地いいので撫でやすいようにちょっぴり俯いてみるルーク。
ふわふわなでなでふわふわなでなで。
と、
「ごめんなさいね」
「え?」
「でも、大丈夫よ」
唐突な謝罪。
意味を理解する間を与えず続けて言い放ったリスティアータは、名残惜しげにルークの頬をすりすりと撫でてにっこり笑うと、再び片付けに戻ってしまう。
「あ、う、うん………?」
あまりにもキッパリとした断言に、ルークは思わず頷いてしまっていた。
納得も、理解も、そもそも最初の違和感についても整理がついていない中で、引き留められる言葉をルークは持たない。
何が『大丈夫』なのか?
それは『大丈夫』と断言する程の『何か』があると言うこと?
その疑問が浮かぶのは、もう暫く後になってから……。
執筆 20140310
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