露見
タタル渓谷での目的を果たし、一路シェリダンへと、宵闇の中、アルビオールは飛行する。
そのアルビオールの一室には、幾つかの寝息が響いていた。
疲れているのだろう、皆その睡眠は随分深い様で、リスティアータは常より幾分気を張らずに1つの…二段ベッドの下で眠る、ティアの元へと歩を進めた。
ティアは特に疲れているのだろう、身動ぎ1つせず、掛布の下でこちらに背を向けて丸くなっている。
何度目かになるので、慣れた様子でティアへと右手を伸ばし……、
パシッ、
と、手首を捕まれた、と理解する前に、
トサリ、
と、軽い音と共に、ベッドに引き込まれたと理解する前に、
リスティアータはふたつの緋色に捕らわれていた。
思い返せば、違和感はあった。
タタル渓谷から戻ったルーク達が随分と草臥れていた事だとか。
珍しく寝ずの番にカンタビレが指命された(とは言え、「悪いが頼みたい」くらいのニュアンスだったが)事だとか。
寝ずの番を除いて最後まで起きていたジェイドが、珍しくもティアに続いて早めの就寝をした事だとか。
思い返せば、違和感はあったのだ。
目の前、互いの吐息を感じられる距離…僅かでも身動ぎすれば唇が触れかねない距離で見つめ会う。
何も知らない者が見れば 、ベッドに押し倒されているリスティアータと、押し倒している男の図。
しかし、現実は甘い雰囲気など双方共に微塵も持ち合わせてはいない。
特にジェイドは、僅かな変化も見逃さない、言い逃れもさせはしないとばかりに鋭い視線でリスティアータを見据え、常に浮かべている不敵な笑みは、今は無い。
どれ程の時間見つめあった頃か、
「さて」
徐に口を開いた男の吐息がリスティアータを擽る。
「言い訳をするならば、今のうちですが」
どうしますか?と、いつも通りの丁寧な言い回しで、
しかし至極淡々とした声音で、男が言うのに、
それまで黙してリスティアータは、
「まぁ、ジェイド」
とっても驚いたわぁ
なーんて、
一気に冒頭へと戻った物凄く今更な感想をふんわりにっこりと宣って。
重苦しかったシリアスな雰囲気をあっさり粉々に壊されて、最早慣れた事とは言え、流石のジェイドも強烈な疲労感は禁じ得ず、
「…………はぁ」
ずっしりと感じた重い疲れに任せ、 リスティアータの肩口に額を当てるように寄り掛かり、深い、深ーい溜め息を吐いた。
執筆 20121209
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