Metempsychosis
in Tales of the Abyss

素敵

基本的にリスティアータの朝は早い。
それは本人曰わく日頃の習慣であり、周りから見れば、皆の朝食を作る為に。

「あら、おはよう、ガイ」

そんな彼女は、今日もガイに笑顔で挨拶をした。

見張り番、ご苦労様でした、と言った彼女の、昨夜の事など忘れたかの様な…何もなかったかの様な態度に、冷たい言葉をぶつけた事を未だ引き摺っていたガイの方が面食らう。
(とは言え、僅か3・4時間前の出来事なのだから、寧ろガイは普通であるのだけれども)

「あ、ああ…おはよう…」

上手く気まずさを隠せないガイに、リスティアータはただ柔らかく微笑んだ。



シェリダンに到着した一行は、ヘンケン達をここまで連れてきたと言う漆黒の翼と遭遇した。

アッシュに金で雇われて協力していると言う3人に、何となく手を出せなくて見送ってしまう。

最初は邪魔ばかりだった漆黒の翼と馴れ合いつつある自分達に、何だかなぁと嘆息した一行は、向かった集会所の前で自分達以上に深く嘆息するタマラとキャシーを見つけ、首を傾げた。

キャシー曰わく、

「ちょっと『い組』と『め組』の対立に嫌気がさしてね」

タマラ曰わく、

「入れば分かるよ」

との事。

ほとほとうんざりした様子に更に首を傾げた一行だったが、唯一人、リスティアータだけは、2人同調するようにへにゃりと眉を下げる。

「まぁ、困った方達ですねぇ」
「ホントだよ。まったく」
「情けないのぅ」

更に混乱するルーク達に、タマラが無言で顎をしゃくる。
促され、ルークがドアを開けると、

「そんな風に心が狭いから、あの時単位を落としたんだ!」
「うるさいわい!そっちこそ仲間に売られたんじゃろが!文句を言うなら出ていけ!」
「そうじゃそうじゃ!」

ヘンケン、イエモン、アストンと、舌戦の真っ最中であった。

うわー…くっだらねー…。

そう思ったルークは悪くない。
言葉は違えど、一行全員が思ったのだから。
タマラとキャシーが言った事も、これを見ては一目瞭然である。

いつ終わるとも…いや、終わらないだろう舌戦に、ルークが思わず扉を閉めようかと思った時、アストンが奇跡的にルーク達に気づき、舌戦は一旦幕を下ろ

「おや、あんた達!」
「おお!振動周波数の測定器は完成させたぞ」
「わし等の力を借りてな」
「道具を借りただけだ」

す訳もなかった。
見つかったなら仕方ないとおずおず集会所に入る一行を放り出して再び舌戦に突入する3人。

「元気なじーさん達だなぁ…」

そう言うガイでさえも呆れるばかりにも関わらず、呆れながらも微笑ましく見ているのは最早リスティアータのみだ。

それをさらりと流してジェイドがヘンケンから測定器を受け取ると、イエモンが真面目な顔で言った。

「話は聞いたぞい。振動数を測定した後は、地核の振動に同じ振動を加えて揺れを打ち消すんじゃな?」
「地核の圧力に負けずにそれだけの振動を生み出す装置を作るとなると、大変だな」

ようやっと真面目に有益な話が出来るかと思ったルークが気を引き締めた、矢先、

「ひっひっひっ」

その笑い声が不気味に響いた。
うわぁ…とアニスが顔を顰めると同時、不気味に笑っていたアストンがグーンと胸を張った。

「その役目、わし等シェリダンめ組に任せてくれれば、丈夫な装置を作ってやるぞい」

案の定、である。

「360度全方位に振動を発生させる精密な演算機は、俺達ベルケンドい組以外には作れないと思うねぇ」

負けじと胸を張ってヘンケンが言うと、イエモンがくわっと長い眉に隠れた目で睨みつけた。

「100勝目を先に取ろうって魂胆か?」

うんざりとルークは思う。
いい加減にしてくれないだろうかと。
そろそろさっきから黙っているナタリアがヤバい気がするからと。

そう思ったルークは正しくて、ナタリアは喧嘩ばかりな老人達を一喝しようと口を開き、

「まぁ、素敵」
「…………は!?」

のほほんと響いた声に固まった。

ギョッとしたのはナタリアのみならず、その場にいる全員(老人達も)が声の主…言わずもがなのリスティアータを見る。
視線が集中した事なんてとんと構わず、リスティアータはにこにこして続けた。

「『い組』さんが丈夫な外装で、『め組』さんが精密な演算機。合わせれば完璧ですものねぇ」
「いや、いやいや、お嬢さんや」
「わし等は決して」

まだ作ってすらいないのに、ぱちぱちと小さく拍手さえ贈ってくれるリスティアータに、老人達は遅ればせながら協力なんて冗談でもお断りだと、相手より先に(ここ大事)言おうとして、

「はい?」

きょとりと瞬くリスティアータに、ぐぅぅっと声を詰まらせた。

その瞳は真っ直ぐに幼子のようにきらきらと3人を見つめ、言うのだ。

なぁに?
駄目なの?
出来ないの?

と、きらきらきらきらと無言で言うのだ。

孫程の年齢の相手にそんな期待満点に見つめられて、老人達は敢えなく陥落した。

「……わし等が、地核の揺れを抑える装置の外側を造る。お前らは……」
「分かっとる!演算機は任せろ」
それは、長年対立し続けてきた『い組』と『め組』が、初めて『協力』するという歴史的瞬間だった。

のだけれども、

「…なぁ」
「あぁ…」

ガイとルークは微妙な顔でこっそりと頷いた。
何故なら…………

「リスティアータ、『い組』と『め組』の事…」
「間違えてるよな…、いや…判別出来てないのか…?」


最後まで気の抜けた空気に、はぁあ…と2人は脱力した。




執筆 20120819

プラウザバックでお戻り下さい。

Back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -