Metempsychosis
in Tales of the Abyss

もやもや

一方その頃のルーク達はと言えば、ダアトに到着するまでの寄り道で無駄にした時間を取り戻すかのように、素晴らしくキビキビと行動していた。

まずは六神将の動向を調べようと、アニスの両親からそれとなく聞き出すと、折り良く六神将全員が不在だと知る。

今がチャンス!とばかり、私室にいたイオンにガイが事情を説明したのだが、残念ながらイオンが確証を持って知り得るセフィロトはラジエイトゲートとアブソーブゲートのみ。
どちらも計測をするには不向きだと言うジェイドに、ルークは落胆を隠せなかった。
しかしイオンが、タルタロスが襲撃されてリスティアータと共に捕らえられていた際、リグレットがタタル渓谷にセフィロトがあるような発言をしていた事を思い出し、ルーク達は新たな手掛かりを得る事が出来たのだが、まだダアト式封咒を解いていないという事で、再びイオンの同行が決まった。

セフィロトの手掛かりも得て、イオンを連れ出し、さぁベルケンドへ戻ってヘンケンさん達から測定器を受け取ろう!と意気揚々と教団を出ようとした時だった。
アッシュがルークに連絡を寄越したのは。

突然襲った頭痛に膝を着いたルークにアッシュが言うに、

…スピノザがルーク達の計画をヴァンに知らせ、当人も六神将に奪われた事。
…ヘンケン達はシェリダンへ逃がしたから、計測器はそちらで受け取れという事。
…大した情報を持たないスピノザを力ずくで奪ったからには、地核を静止されては困る何かがヴァン達にはあるのかもしれない事。
…そして、自分はスピノザを捜しつつ、地核静止の意味を探るが、ルーク達と連絡を取り合うのは、これで最後だ、という事だった。

言いたい事を言って連絡を切ったアッシュの言葉を伝えると、ジェイドは自らの非を認めて眉を顰め、ナタリアは見るからに落胆した。

しかし今は思いに耽る時間はない。

ヴァン達が地核静止にそれ程までの反応を示した以上、この先どのような妨害をされるか分からないのだから。

そうしてイオンを連れたルーク達がローレライ教団を出たのが、トボトボと歩いて帰途についたアリエッタがダアトに到着した正にその時だとは、知る由もなかった。

さて、道中でフルーツサンドを食べ終えて、丁寧に畳んだ紙袋をぬいぐるみと一緒に大事に抱えたアリエッタは、ダアトの入口で少し意外なお出迎えを受けていた。

「あらあら、アリエッタ様。お帰りなさいませ」

ほのぼのした声に、ほのぼのした顔。
ちょっぴりリスティアータにも似た雰囲気を持つその女性の名はパメラ……アニスの母親である。

出迎えられたほんわかした笑顔がリスティアータと重なって、アリエッタはきゅぅっとぬいぐるみを抱き締めた。

と、

「娘とそのお友達が、六神将の皆さんにご用があるようで、捜していたんですよ」

やっぱりほのぼのとした笑顔で、声で、パメラは言った。

「………………」

アリエッタは思った。

絶対、違う…………と。

リスティアータが近郊で待っていたからには、アニス達がダアトに何らかの用があって向かったのは分かっていた。

そのアニス達がアリエッタ(六神将)に『ご用』……?
有り得ない。

パメラはアリエッタがアニス達と敵同士だと知らないから、間違えているのだ。

そう完結して、

「………………」

アリエッタはぎゅうっとぬいぐるみを抱き締めた。
強く抱き締め過ぎた所為で、ぬいぐるみは少し可哀想な感じになってしまったし、紙袋も悲鳴を上げていたが、アリエッタは気付かなかった。

そんな彼女の心情はと言えば、

(…あいたく、ない…)

だった。

それは、初めての心情だった。

アリエッタはルーク達が嫌いだ。
リスティアータを連れて行ってしまったから。
アリエッタから奪ったから。
いっぱい傷つけるから。

その気持ちは今も変わらないし、きっとこの先も変わらない。

でも、今は、

もやもやした気持ちを抱えた今のままでは、あいたくない。
ちゃんと考えるって、約束したから。
まだ、ちゃんと考えてない。

だから、

なのに、

「あらあらあら、アニスちゃん。アリエッタ様が戻っていらしたわよ」
「うげ!まず…」
「確か、アリエッタ様を捜していたのよねぇ?皆さんがいらした事、今お伝えしておきましたよ」
「ぎゃー!ママ!何て事すんのっ!」

本当に、あいたく、なかったのに。

「…………て…っ」
「え?」

ぽろりと口から零れ落ちた言葉が辛うじてルークの耳に届いたようだ。
そして戸惑った様子で見下ろしたルーク達を、アリエッタはキッと睨み付けた。

もう、もやもやを抑えきれなかった。

「っ…どうしてっ!?」
「!?」

突然叫んだアリエッタに呼応するように、連れていたライガ達が唸り声を上げる。

「どうしてっ…リスティアータ様、連れてっちゃうの…っ!?」
「ちょっと、根暗ッタ!こんなトコで暴れたら…」

根暗ッタ…その大嫌いな呼び方に、アリエッタの思考には一気に怒りが燃え上がる。
アニスとしては街中での戦闘を諫めようと思っての発言だったが、完全に逆効果となった。

「アニスなんか大嫌いッ!嫌い…みんな大嫌いっ!リスティアータ様をアリエッタから取っちゃうくせにっ!」

いよいよ体を低くしたライガ達はどう見ても戦闘体勢で、ルーク達は身構える。

「いっぱいいっぱい傷つけるくせにっ!」
「アニス!イオン様を!」
「はいっ!」

そして、

「…何にも、知らないくせに…っ!!」

一際高い叫びを合図に、ライガ達はルーク達に襲い掛かった。
頭を振るアリエッタは、ライガ達の様子に気付いていない。

嫌い、嫌い、大っ嫌い!と、ただただ叫んでいたアリエッタは、瞳に滲んだ涙を無意識に拭おうとして、止まった。
カサリと、抱き締めていた紙袋が足元に落ちたのに気づいたからだった。

と、

「きゃぁっ!」

響いた悲鳴に、アリエッタがハッと顔を上げると、背に酷い火傷を負ったパメラと、パメラに駆け寄るイオンとアニス。
そして、それに構わず雷撃を放とうとする、ライガの姿が見えて、

「駄目っ!」

気づけば、声を上げていた。
慌てた声に、ライガはピタリと動きを止める。

「アリエッタ…」
「…みんな、やめて……!」

これでは、あの時と…カイツール軍港と同じだと、アリエッタは唇を噛んだ。

(ちゃんと考えるって、リスティアータ様と約束…した、ばかりなのに…っ)

落ちた紙袋を拾い上げ、アリエッタはライガ達に下がるように指示をして、ルーク達に向かい合う。

「もう、攻撃しない…です」
「どういう…」
「でも…今だけ、だから…っ!」

そう言って、アリエッタはルーク達に背を向けた。
もうこの場に居るのは、限界だったから。

だから、アリエッタは知る由もなかった。

「ナタリア!パメラさんを」
「分かりましたわ!」

ナタリアに治癒術を受ける最中にも、イオンを案じたパメラの姿に、

「イオン様……怪我は……」
「僕なら大丈夫です。ありがとう、パメラ」
「イオン様を護れたなら本望です……」

言葉に、

『ガイ!危ない!』

『ガルディオス家の跡取りを護れたなら本望だわ……』

「……思い……出したっ!」

1人の青年が長年封じ込めていた記憶の扉が開かれた事を。




執筆 20120115




あとがき

序盤の説明的文の所為で、今までになく長くなりました(^_^;)もっと簡略出来た筈だけど無理でした!
文才が欲しい…orz

前話で大人しく退いたアリエッタでしたが、流石にさっきの今で精神的な収拾をつけられるほど大人じゃなかったようです。
後でちゃんとパメラさんに謝りますよ。
書かないけど(爆)

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