誰がために、
クスン、とアリエッタが小さく鼻を啜ったのは、陽も傾き始めた頃だった。
止まらないのではないかと心配になってしまう程に泣き続けたアリエッタの涙で、リスティアータの衣服の肩はしっとりと濡れてしまっている。
「もう大丈夫かしら?」
優しくトントンと小さな背中を叩いたリスティアータから、名残惜しそうに離れながら、アリエッタはコクリと頷いた。
その長い睫は未だ涙に濡れていたが、それでもリスティアータはホッとする。
と、カサリと膝の上で立った音に気付いて下を見て、
「あら、そうそう」
「…?」
すっかり忘れていたフルーツサンドの存在を思い出した。
中身は無事かと確認すれば、幸い地面に落ちも崩れも潰れもせずに済んでいるようである。
「アリエッタ、はい」
「…?」
「フルーツサンドを作ったの。帰ったらお食べなさいな」
「…!、……」
リスティアータお手製のフルーツサンド。
その響きにパッと表情を輝かせたアリエッタ。
が、しかし、その喜びは直ぐに悄々と萎んでしまった。
「アリエッタ?」
「………リスティアータ様」
そして、
「アリエッタと一緒に、来て欲しい…です…!」
ぎゅっと自分のスカートを握って言ったアリエッタに、リスティアータは…ーーーーーーーーーー
「良かったんですか?あれで…」
アルビオールで出迎えてくれたカンタビレの言葉に、リスティアータはほんのりと苦笑した。
ノエルの姿が見えないのは、また機関室に戻っているからだろうか。
「ええ」
「………」
リスティアータは、ふっと視線を下げた。
その瞳が微かに震える。
ライガ・クイーンに、あの子が泣くのを見たくないからと言いながら、それを言った当人が一番アリエッタを泣かせているという矛盾。
クイーンに言った言葉には嘘も後悔もないけれど、だからと言って、申し訳ない気持ちがない訳もない。
でも…、それでも…、
「…冷たい言い方かも知れないけれど、」
譲れない、譲る訳にはいかないから。
「今は優先したい事が別にあるから」
リスティアータが再びカンタビレの目を見た時、その瞳には強い意志が灯っていた。
トボトボと、ライガを連れて街道を歩きながら、アリエッタは考える。
『…一緒には、行けないわ』
勇気を出して言った、その答えを、アリエッタ自身分かっていた。
『アリエッタに叶えたい願いがあるように、私にも叶えたい願いがあるの』
アリエッタの願い。
それは、イオン様との約束を守る事だとか。
ママと、家族とずっと一緒にいたいだとか。
リスティアータ様に、笑っていて欲しいだとか。
幸せになって欲しいだとか。
……何にも縛られず、自由に、なって欲しいだとか。
そんな、ぼんやりとしたものばかりだった。
それに嘘はないけれど、
アリエッタなりに考えてはいたけれど、
でも、
『譲れないの』
そう言ったリスティアータに、アリエッタの内側で、何かが震えた。
「……リスティアータ…様……」
ぎゅうっとぬいぐるみを抱き締めると、手に持っていた紙袋がガサガサと音を立てる。
リスティアータお手製の、フルーツサンド。
アリエッタは紙袋を開けて1つ手に取って、ぱくりと一口食べれば、ほんのりと甘い果物の味が広がった。
歩きながら食べるだなんて行儀が悪いと、リスティアータやリグレットに知られたら叱られてしまうのだけれど。
「………おいしい」
もぐもぐとフルーツサンドを食べながら、アリエッタはダアトに向かって歩き続けた。
執筆 20120101
あとがき
明けましておめでとうございます!
そして正月休みに黙々と書いてます(笑)
素敵、寝正月!!
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