Metempsychosis
in Tales of the Abyss

寄り道

「ノエル、お茶が入ったわ」
「あ、ありがとうございます」

今日も今日とてリスティアータはノエルと一緒にアルビオールでお留守番をしている。
カンタビレは言わずもがなのお散歩タイムである。

場所は巡り巡り巡ってグランコクマ近郊。

何故ベルケンドにいた彼女達がそんな所にいるのかを説明すれば、時は拗ねたアッシュがリスティアータとのベルケンド観光を終えた夕方にまで遡る。

陽が傾き始めた事もあり、そろそろ宿に戻ろうかと歩き出した時だった。
立派な門構えの建物から1人の老翁(ろうおう)が飛び出してきたのは。

「あら?」
「スピノザ?」
「………!」

スピノザと呼ばれた老翁は、アッシュを見てハッと身を竦ませたものの、再び脇目も振らずに走り去ってしまう。
リスティアータはそれをきょとりとしながら見送って、どうやら知っている人物らしいアッシュに尋ねようと振り向いた。

と、先程スピノザが飛び出してきた建物からルーク達が2人の老人と共にぞろぞろと出て来たのを見て、リスティアータはまたまたきょとりと瞬く。

「今スピノザが逃げて行ったぞ」
「スピノザが?何をしていたんだ?」
「…今の話を立ち聞きして、通報しようとしているのでは」

そう何とはなしに言ったルークに一瞬視線を向けながらも、気を取り直してジェイドが言うと、老婦人…キャシーがまぁ!と眉を釣り上げた。

「スピノザはそんな男じゃないわ!」
「人は見掛けによりませんよ」

アニスの言いように、キャシーは更にまぁ!と言い、可愛らしくぷうっと膨れる。
その様子をリスティアータはシェリダンの老人達に似た微笑ましさを感じながら見ていた。

「…何か聞かれては困る話をしていたのか?」
「ファブレ公爵やヴァンには内密で、禁書の音機関を復元させるんですのよ」
「その間に俺達はイオンを連れて来るんだ」
「?」

略し過ぎた説明にリスティアータとアッシュの頭上に疑問符が浮かぶ。
とは言え、リスティアータとて人のことは言えたものではないのだけれども。

と、あの略し過ぎた説明を自分なりに判断したらしいアッシュ(単にリスティアータで馴れていたからとも言える)が頷き、スピノザの逃げた方へ足を向けた。

「…とにかく、スピノザを捕まえておけばいいんだな。俺が奴を捜しておく」
「アッシュ!私達に協力して下さいますのね!」

また一緒に行動出来るのではという期待もあったのだろう。
嬉しそうに頬を染めてナタリアが言った。

それまでは良かった。

が、

「それなら、一緒にスピノザを捜そうぜ!」
「か、勘違いするな!俺もスピノザには聞きたい事がある。そのついでに手伝ってやるだけだ。お前達と…レプリカ野郎と馴れ合うつもりはないっ!」

宿屋に続いて始まってしまった喧嘩を止める者はいない。
いい加減呆れてしまったと言える。

「何言ってんだよ!どこに逃げたか分からないんだぜ。それに乗り物だって必要だろ!」
「黙れっ!お前達はさっさとイオンを連れて来ればいいんだよ」

と、宿屋で学習したのか、早々に喧嘩を切り上げたアッシュは、物凄く名残惜しそうにリスティアータを振り返る。

「いってらっしゃい。道中気をつけてね」

その言葉と柔らかな微笑みに背を押され、アッシュはひとつ頷きを返して、スピノザの逃げた方へと走り去った。

さて。
思わぬトラブルもアッシュに任せる事が出来たのだから、ルーク達は先程述べた『イオンを迎えに行く』べく、ダアトへと出発する、筈だったのだが…。

「っか〜!あったまきた!あいつより先にスピノザを見つけてやる!」

と、まぁ、悔しそうに地団駄を踏むルークによって、それは何となく遠退いたように思われた。

一緒にいたもう1人の老翁に煽られたのも少なからず影響し、カンタビレとノエルと合流して、とりあえず出発しようとベルケンドを経って暫くしても、ルークの負けん気はなかなか納まりを見せなかったのだから。

それを皆で何とか宥め賺して寄り道する事なくパダミヤ大陸に到着し、相変わらずのお留守番組でルーク達を見送って、数時間後。

「ケテルブルクに行く!」
「ノエル、出発して下さいませ!」

ムスーっとむくれたルークとナタリアとが開口一番そう言ったのに、リスティアータもカンタビレもノエルも、揃って首を傾げた。

と言うか、帰りが余りにも早いのに加え、そもそも迎えに行った筈のイオンの姿がちらとも見えないのだけれども…。

と、ルークに続いてアルビオールに乗り込んできた面々の呆れと疲れと色々が混じった雰囲気を見て、リスティアータ達は何となーく理由を察した。

「あらあら、困った子達ねぇ」

子達、とは間違いなく彼等の事である。
そして、それを聞いたならルークは更にむくれただろうが、幸いにもせよ聞かれることはなく。

ケテルブルク港に到着する頃にはルークもナタリアも少しは頭も冷えていて、これに満足したら次はいよいよダアトへ向かう…、かと思えば、惰性に近い勢いのまま、結局はグランコクマにまでスピノザ追跡をしてしまって現在に至る、という訳である。

「ここ数日操縦続きで疲れているのではない?」
「いいえ!操縦するのも譜業弄りも大好きですから、全然大丈夫です」

にっこりと答えたノエルは本当に楽しそうで、それを少し眩しく感じながら、リスティアータも柔らかく微笑んだ。

それから暫くして戻ったカンタビレを加えてお茶を楽しみ、ルーク達もアルビオールに戻った所で、やっと、本当にやっと、一行はダアトに向かって出発したのだった。




執筆 20111023

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