Metempsychosis
in Tales of the Abyss

禁書

リスティアータの『仲良し』発言に反論という名の自爆を繰り返したルークとアッシュが力尽きた頃、パタンと開いていた禁書を閉じて、ジェイドが切り出した。

「さて、痴話喧嘩も終わったようですので」
「「痴話喧嘩じゃねぇ!」」
「あらあら、ふふふ」
「「……………」」

最期の力を振り絞った反論もリスティアータのにこにこ笑顔の前に敢えなく撃沈。
戦闘不能に陥った2人を一切スルーして、ジェイドは続ける。

「禁書についてですが、実に有益な情報が記されていました」
「…何か解ったのか?」

復活しきれないながらも、重要な話なだけにルークが訊いた。
やはり肩はかくんと落ちたままなのだが。

それもやっぱりスルーしてジェイドが言うに、魔界の液状化の原因は、地核にあるとの事だった。

地核とは記憶粒子が発生している惑星の中心部。
それは本来静止状態にある筈なのだが、激しく振動している事によって、魔界の液状化が発生しているのだと。

しかし、そうなると当然抱く疑問が1つ。

「それならどうしてユリアシティのみんなは、地核の揺れに対して何もしなかったのかしら」

そう。
原因が明らかにされたならば、それに対する対策に向けて何らかの行動を起こしてもおかしくない筈なのだ。
しかし現在も液状化が起きているからには、誰も動かなかったという事なのだろうか。

と、やや復活したルークが言った。

「ユリアの預言に詠まれてねーからとか?」
「それもありますが、一番の原因は揺れを引き起こしているのがプラネットストームだからですよ」
「プラネットストームって、確か人工的な惑星燃料供給機関だよな?」
「そうよ、覚えていたのね。地核の記憶粒子が第一セフィロトであるラジエイトゲートから溢れ出して、第二セフィロトのアブソーブゲートから、再び地核へ収束する。これが惑星燃料となるプラネットストームよ」
「そう言えばプラネットストームは創世暦時代にサザンクロス博士が提唱して始まったのでしたわね」

思い出したように言ったナタリアに頷いて、ジェイドは読むともなく禁書を捲る。

恐らく、当初はプラネットストームで地核に振動が生じるとは、サザンクロス博士自身も想定していなかったのだろうし、実際振動は起きていなかったのだろう。
しかし長い時間が経つ間に歪みが生じ、地核は振動するようになった。

原因である地核の揺れを止める為にはプラネットストームを停止しなくてはならないが、プラネットストームを停止しては、譜業も譜術も効果が極端に弱まり、音機関も使えなくなる。
外殻を支えるパッセージリングも完全停止する。

つまりは、

「打つ手がねぇじゃんか…」

八方塞がりな状態なのかと、落胆と焦りが綯い交ぜになった表情を浮かべたルークの言葉を、ジェイドはあっさりと否定した。

「いえ、プラネットストームを維持したまま、地核の振動を停止出来ればいいんです」
「そんな事出来んのか?」
「この禁書は、その為の草案が書かれているんですよ」

ジェイドの手元で再びパタンと閉じた禁書に皆の視線が集まる。
何も知らない者からすれば禁書と印されていても古びたただの書物。
誰が思っただろう。
その古びたただの書物に記された草案が、世界を救う希望の光になろうとしているなんて。

「ただユリアの預言と反しているから、禁書として封印された?」
「はい」
「………」

話し合う皆の後ろで、リスティアータはふ、と息を漏らす。
しかし、それは溜息と呼ぶには余りにも微かで、誰一人気づく事はない。

「セフィロト暴走の原因がわからない以上、液状化を改善して外殻大地を降ろすしかないでしょう。もっとも、液状化の改善には禁書に書かれている音機関の復元が必要です。この街の研究者の協力が不可欠ですね」
「だがこの街の連中は、みんな父上とヴァンの息が掛かっている」

沈黙が起こった。
ちょっとした、些細な沈黙。
しかし、明らかに微妙な沈黙が。
そしてその沈黙の間に、数人の視線がゆっくりとアッシュに集まる。
その目はぱちくりと見開かれ、何らかの驚きを現しているのだろう。
その訳は言うまでもなく、その発言にあったのだけれど。

「……ち、父上ぇ……!?」
「…なんだ!?何がおかしい!」

仰け反って驚くルークは大袈裟にせよ、ティアもアニスも似たような反応をしている。

かと言ってルーク達を窘める者がいる訳でもなかった。
何故ならその反応をするのも仕方がないかと思ってしまう位に、アッシュの態度は常にムスッと不機嫌(対リスティアータは除く)であるのだ。
幼少期を共に過ごしたナタリアとガイも、大して興味のないジェイドも、生暖かく見守った。

と、いち早く驚きから脱したアニスがニヤっと笑う。

「へぇ〜。アッシュってやっぱり貴族のお坊ちゃまなんだぁv」

そう言われてハッとしてギュッとしたアッシュは、居心地が急激に悪化した所為だろう、盛大な舌打ちをして宿の玄関へと歩き出した。

「アッシュ!どこへ行きますの!」
「……散歩だ!話は後で聞かせてもらうから、お前等で勝手に進めておけ!」

急激に傾いた機嫌のままに歩き出そうとしたアッシュだったが、

「まぁ、お散歩?」

ウキウキとした、顔を見なくても分かる声音に、ピタリと足を止める。

「アッシュ、私も一緒にいいかしら?」

にこにこと楽しそうなリスティアータに言われて、アッシュに否という選択肢はない。
むしろ望むところである。

「あ、ああ…」

そうして宿を出た2人は気づかなかった。

自分達を見送る視線が、物凄―く生温かった事に。

「アッシュの周りに小花が咲いたぜ…」

呆然と呟いたルークの言葉はこれ以上ない位に的確だった。




執筆 20110925




あとがき

(表情を)ハッとして(眉間を)ギュッとした行は、『げんこつ山の狸さん♪』的なテンポで、

更に、「アッシュの周りに小花が咲いたぜ」は『ぶんぶんぶん〜、蜂が飛ぶ〜♪』的なテンポで読む事をお勧めします(笑)

それにしても、相変わらずアッシュ君のターン!

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