Metempsychosis
in Tales of the Abyss

喧嘩するほど仲良しさん

フィエラはぱちっと目を覚ました。

仰向けに寝たその視界に真っ先に入ったのは、ここ数日の連泊で見慣れた宿屋の天井。
耳に届くのは小鳥の囀り。
僅かに薄暗いだけの室内は、朝日が窓から射し込んでいる事を知らしている。
同室のカンタビレの姿が見えないが、いつもの『お散歩』だろうと寝ぼけながらも思考した。

問題無い。
至って平和な、普通の朝、である。

きょとりと瞬きをしながらそれらを眺めたフィエラは、仰向けの状態もそのままにこてんと首を傾げた。

「…………あら?」

疑問を抱いて自問するように呟いたフィエラだったが、そう考える間もなく、今度は反対側にこてんと首を傾げる。

「……あらあら?」

自分は何を疑問に思ったのだったろうか…?と、またぱちぱちと瞬き、瞬き、瞬き。

「あら、忘れちゃったわね」

爽やかな朝に相応しいふんわりのほほんとした笑みを浮かべ、身支度を整えるべく洗面所に向かった。




結局の所、点々と起き出してきた面々がロビーに揃ったのは陽も高く高く昇った昼近くだった。
理由はと言えば何て事はない、ルークが中々起きてこなかったからである。

漸く起きてきたルークと目が合ってしまったアッシュは空かさず嫌みを放った。

「……よくいつまでも寝ていられるな。そのうち脳が溶けるんじゃないか?」
「お前はそのうち口が曲がるんじゃねーの」

寝起き早々の嫌味にルークはムカッと顔を顰め、それに負けじと返した嫌味に、今度はアッシュがムカッと顔を顰める。

「「〜〜っ」」

被験者とレプリカなのだから当然とは言え、そっくりな2人が大した事の無い嫌味(ジェイド談)で突っつき合うの図を、大半の面々が呆れながら傍観する中、唯1人、にこにこと微笑む人物がいた。

「あらあら」

どこかふわふわと浮いたような声音に、ルークと睨み合っていたアッシュはハッとする。

ーーーー前にもこんな事があったような…いや、あった、絶対あった!

アッシュが『前』を思い出すのに時間は掛からなかった。
理由は当然、物凄く嫌で屈辱的な思い出だからである。
その時の状況は、忌々しい事に今と酷似していて、ヤバい、と思うや、リスティアータを振り返り予防しようとした、が、

「姉う」
「ふふふ、仲良しさんねぇ」
「はぁ?!」
「〜〜〜〜っ」

ーーーーああ…遅かった…っ

後悔やら衝撃やらで、アッシュは眩暈を覚えて頭を抱えた。
まさかの悪夢再来である。

と、今回のもう1人の当事者は…とそちらを見て見れば、ルークは完全に固まっていた。
更に、その剥き出しの両腕には、見覚えのあるポツポツが…、って!

アッシュは自分の眉がぎゅわっと寄るのを自覚しながらも、それを止められもせず、ルークを思い切り睨みつけた。

(鳥肌立ててぇのは俺の方だ!この屑!!)

でもアッシュは我慢した。
ここでルークと無駄な抗論をしてみろ。
絶対姉に仲良し認定第2弾になるっ!と思って、めっちゃ頑張って我慢した、のに…

「〜っ冗談じゃねぇ!」

それを知らないルークはハッと我に返るなり猛抗議を開始した。

(この馬鹿野郎が!)
「アッシュと『仲良し』なんて有り得ねぇ!」
「………(こっちから願い下げだ…っ)」

でもアッシュは我慢した。

「あら、そうなの?」
「そうだよ!人の顔見りゃいちゃもんつけてくる奴と仲良しな訳ねぇ!有り得ねぇ!」
「……(…が…我慢だ…っ…怒鳴ればシンクの時と…同じに…っ)」

アッシュは、我慢、した。

「そう、なの…」
「そ、そんな顔されても…」
「……(…だが、待てよ?)」
「そう…」
「いや、あのさ…」
「……(何で俺だけ我慢してるんだ?)」
「…………」
「リスティアータ?お―い?」
「……(元はと言えば、レプリカ野郎がいつまでもぐうたら寝転けていたのが悪いんじゃねぇか)」
「お、おい。お前からも何とか…って、おい?アッシュ?」
「……せぇ」
「は?」
「うるせぇって言ってんだ!この屑!」

アッシュは、我慢…………出来なくなった。

「な、何だと!?」
「さっきから黙って聞いてりゃいい気になりやがって!レプリカ野郎と仲良くなんざ、こっちから願い下げだ!大体、何だその口のきき方は!俺への不満なら俺に言えば良いだろうが!相手を間違えてんじゃねぇよ、この屑が!姉上にこんな悲しそうな顔させやがって!」
「な、んだとぉ!?元はといえば、お前が突っかかって来たのが悪いんだろ!」
「ぁ゙あ゙!?」
「会う度会う度突っかかりやがって!大体そんな文句言うなら黙ってないで否定しろよ!」
「俺だって好きで黙ってたんじゃねぇよ!シンクの時は否定して『仲良し』にされたか…ら…」

アッシュは我に返った。
今の気持ちを文字にするならば、

やっちまった!

これに尽きるだろう。

そして、

「あらあら」

判決は、

「やっぱり仲良しさんねぇ」

下された。

「「それだけは絶対ねぇぇぇええ!」」

「あら、息もピッタリ」

2人揃っての全力否定は、にこにこなリスティアータに敢えなく撃沈された。




執筆 20110910




あとがき

アッシュの悪夢再び(笑)

ただ、リスティアータはシンクの時とは違って単純に『仲良し』と思っている訳ではありません。

互いの存在を憎み合って潰し合っても不思議ではないのに、抗論で済んでる2人は『思っていたよりもずっと』仲良しだったから嬉しいわ〜って意味です。

何にせよ、アッシュ…哀れ〜(笑)

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