Metempsychosis
in Tales of the Abyss

にこやかに意味深に

現れたリスティアータを見て、リグレットは目を閉ざしていない事に驚いたようだが、ヴァンは驚く事なく真っ直ぐにリスティアータを見ていた。

突然開いたドアに身構えたのだろう、十戒の様に割れたルーク達の間を通り抜け、アッシュと共にヴァンの前に立つ。

「お久しぶりですね、ヴァンさん、リグレット」
「ええ、リスティアータ様とは…ケセドニア以来、でしたか」
「はい」

にっこりと、まるで数年振りに友人と再会したかのような気安さで挨拶したリスティアータに、ヴァンも極普通に応え、リグレットはその傍らで静かに目礼で返した。
と、その視界に入ったそれに、リグレットはハッと息を呑んだ。

「リスティアータ様、その傷は…っ」
「あら」

隠していた訳ではないので、気付かれて当然だが、痛ましげに眉を顰められ、リスティアータは苦笑する。

「治療はして頂いたし、もう痛くないの。心配掛けてごめんなさいね、リグレット」
「しかし…」
「……………アクゼリュスですか」

それまで黙していたヴァンの確認に、リスティアータは再びにっこりと笑って頷いた。

「はい」
「随分と無茶をなさいましたね」
「そうですね。ちょっと大変でした」

のほほんと言うが、ルーク達からすれば「どこがちょっと!?」とツッコミを入れたい所である。

ヴァンもまた、そのちょっとじゃないちょっと加減を正確に悟った彼の表情が、初めて動いた。

眉を顰めたヴァンは、自らの視線が自然と厳しくなるのを自覚しながらも、リスティアータの傷だらけの細い両手を見る。
その傷は、生涯消えない事は一目瞭然だった。

「大切ですか?貴女にとって、この世界は、人類は」

ーーーーーそんな怪我を負っても、助けたくなる程に。

その問いに、目を細めたのは誰だったか。

その者達の視線を浴びながら、リスティアータは、

「あら、どうなんですかねぇ」

やっぱりのほほんと、応えた。

ガクッと脱力感に襲われたルーク達とは違い、ヴァンはその返答で一先ず満足したようで、ふっと息を吐く。

厳しかった瞳も静まり、穏やかとも言える微笑みさえ浮かべている事に、ルーク達はまた驚くのだが、それよりも、

「そうですか」
「ええ」
「では…」
「ええ、今は」

2人にしか分からないだろう会話の内容の方が気になった。

しかし、リスティアータとの話は終わったとばかりに、ヴァンは不敵な笑みを浮かべ、アッシュに向き直る。

「アッシュ。お前の超振動がなければ私の計画は成り立たない。私と共に新しい世界の秩序を作ろう」
「断る!超振動が必要なら、そこのレプリカを使え!」
「雑魚に用はない。あれは劣化品だ。1人では完全な超振動を操る事も出来ぬ」

ヴァンの誘いを間髪入れずにアッシュが撥ね除けるも、ヴァンは嗤って言った。

「!」
「ヴァンさん」
「いかなリスティアータ様と言えど、事実です。あれは、預言通りに歴史が進んでいると思わせる為の捨て駒」

リスティアータが止めようと、どこまでも冷徹に、どこまでも淡々と、ルークの…『レプリカ』の存在意義を、用済みである無価値さを語るヴァンに、ルークは顔を蒼白にして立ち尽くす。

モースや他の六神将達に言われたのとは全く違う、足下から崩れ落ちるような衝撃に、言葉もなかった。

「そこ言葉、取り消して!」
「ティア、お前も目を覚ませ。その屑と共にパッセージリングを再起動させているようだが、セフィロトが暴走しては意味がない」

ルークを庇うティアにも、ヴァンは冷たく言う。

自分の、自分達の事を否定され、思わずナイフを構えたティアの前には、譜銃を構えたリグレットがいた。

一触即発の空気を断ち切ったのは、他でもない、ヴァンで。

「構わん、リグレット。この程度の敵、造作もない」

言葉のままに余裕なのだろう。

リグレットが下がっても尚、腰に下げた剣に手を添える事さえしていないのに、圧倒的なプレッシャーを感じ、誰も動けなかった。

そんな中で、ジェイドがヴァンから視線を逸らす事なくティアを諫める。

「ティア、武器を収めなさい。…今の我々では分が悪い」
「ああ。この状況じゃ、俺達も無傷って訳にはいかない。たとえ相討ちでも駄目なんだ。外殻を降下させる作業がまだ残っている」
「…っ」

ガイにも諭され、僅かに冷静さを取り戻したティアがナイフをしまった。

「…ヴァン。ここはお互い退こう。いいな?」
「よろしいのですか?」
「アッシュの機嫌を取ってやるのも悪くなかろう」
「主席総長のお話は終わった。立ち去りなさい」

自分が言い出した事とは言え、揶揄するように言われて眉を顰めたアッシュは、リグレットの言葉に背を向け、先に部屋を出たルーク達に続く。

「では、ヴァンさん、リグレット、またお会いしましょうね」

そう言って、ひらひらと暢気に手を振る場違いなリスティアータの手を引いて。




執筆 20110512




あとがき

お久しヴァンヴァン現る〜♪っと言う訳で、意味深な会話ものほほんがぶち壊しです。

いいんだ!
リスティアータはそんな人だよ!
きっと…うん、きっと!

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