Metempsychosis
in Tales of the Abyss

再会と再会と…

リスティアータ達がベルケンドに到着したのは、ルーク達を救出してから3日後の事だった。

音機関都市と呼ばれるだけあってか、研究機関が大半以上を占めるベルケンド。
殆どが研究員とその家族である分、宿泊客など他の都市と比べて少ないのだろう。
宿屋は数える程もない。

その内の一軒に(都市入口近く、人間の出入りが見渡せる所を選んで)宿を取りつつ、カンタビレが世間話を装って問うに、他の宿を含めて数日以内で団体の宿泊客があったなんて話は聞かないと言う。
やはりリスティアータ達はルーク達より先の到着となったようだ。

あちらは徒歩である事を考えると、早くて明日、遅くても3日後には到着する筈だとカンタビレは判断した。

その日は陽が傾き始めていた事もあり、そのまま就寝。

そして翌日の夕刻。

リスティアータの淹れたお茶を片手に窓辺から入口を見ていたアッシュは、視界に入った朱に鼻を鳴らした。

「無事に湿原を越えたようだな」
「来たのかい?」
「ああ。……ん?」

独り言に近かったアッシュのそれを聞きつけて、カンタビレも窓辺に寄って、確かに全員欠ける事なく揃っていた事を確認した時だ。

一行は団子になって何か相談したかと思えば、宿には見向きもせずにベルケンドの奥に向かって行った。

「……行っちまったねぇ」

まぁ、宿で落ち合おうなんて言ってなかったしね、とカンタビレはケロッとしていたが、アッシュはルーク達が向かった方向に嫌な予感を覚える。

確証はないし、他の研究施設を目指したのかも知れない、が、しかし。

「…少し出てくる」
「何だい、急に」
「…………向こうにある第一音機関研究所には、レプリカ研究施設があった筈だ」
「!…ヴァンのかい?」
「ああ」
「……」

それを知ってしまえば、カンタビレも渋い顔を禁じ得ず、アッシュの行動も頷ける。
カンタビレとしては、此処までの運が良過ぎただけに、そろそろ手痛いしっぺ返しに遭っても不思議ではないとも思っていた。

と、

「あら、アッシュ、お出掛けするの?」

そんな2人に、お茶のおかわりを持って来たリスティアータがにこにこと近づく。
しかし、その微笑みは2人の唯ならぬ様子に消え、微かに眉を顰める。

「何かあったのかしら?」
「ルーク達が到着したのですが、」
「あら、良かったわ」
「あいつ等、レプリカ研究施設に向かったかもしれない」
「あらあら…。それでアッシュもお出掛けするのね」
「……ああ」
「そう」

アッシュは先程よりも嫌な予感がして、サッとリスティアータに背を向けた。

が、

「アッシュ」
「っ!」

姉に呼ばれては無視出来ず、ビタッと停まったアッシュの手を、リスティアータはきゅっと繋ぐ。

「一緒にお出掛けしましょう」
「お気をつけて」
「ありがとう、カンタビレ」

行ってきます、とカンタビレに手を振るリスティアータに手を引かれ、アッシュは宿屋を後にした。



ああ、こんな状況じゃなければ、絶対もっともっともっと!嬉しい筈なのに…!

そう内心で嘆くアッシュなんて露知らず、リスティアータはキョロキョロとベルケンドの街並みを眺めている。

タルタロスでアッシュが行動を共にしている時に立ち寄ったが、リスティアータはお留守番要員だったので、珍しいのだろう。

「姉上、こっちだ」
「あら、そうなの?良く知ってるわね、アッシュ。凄いわ」

リスティアータと2人きりで、リスティアータと手を繋いで、自分がリスティアータを案内出来る(褒められる)なんて、初めてだった。

(こんな状況でなければ、もっと1日掛けてゆっくり案内したかった…!)

おのれ、レプリカ……ッ!と、完全無欠な八つ当たりを内心で生産しつつ、第一音機関研究所に到着した途端、2人は神託の盾に囲まれていた。

「アッシュ特務師団長…?!」
「そんな、先程確かに総長の所に…」

アッシュの登場に驚く神託の盾の言葉に、アッシュは自分の予感が当たってしまった事を知る。
しかも、間の悪い事にヴァンがいるとは。

「……ヴァンは中か」
「は…、し、しかし…」

戸惑う神託の盾を無視して、アッシュは第一音機関研究所に足を踏み入れた。

所内は正方形の部屋が縦に横にと繋がった造りとなっていて、非常に分かり難い。
アッシュも一度来ていなければ迷っていただろう。

程なくして辿り着いたレプリカ研究施設の前で、アッシュはリスティアータを振り返った。

「アッシュ?」
「姉上は、ここに」
「行くわ」
「……姉上」

決然と告げたリスティアータは、心配するアッシュにふんわりと微笑んで言った。

「ヴァンさんとお会いするのは随分と久し振りなんだもの。ちゃんとご挨拶(、、、)しないと」

それでもアッシュは渋い顔をしていたが、そもそも勝てる相手ではない。
繋いだままだった手を宥めるようにポンポンと叩かれ、深い溜息を一つ吐いて諦めた。

そうしてレプリカ研究施設内を進み、程なくして辿り着いた扉を躊躇いなく開く。

そこでリスティアータが真っ先に見えたのは、

「待ちかねたぞ、アッシュ。そして…ーーーーーーーー…、」

初めて見る、でも触れて知っていた人、
哀しくて…優しくて…でも抑えきれない激情を持った人、

「ーーーーーー…リスティアータ様」

ヴァン・グランツ、その人だった。




執筆 20110505




あとがき

アッシュが壊れてる?
気のせい気のせい☆
お手々繋げてらんらんらんでテンションあがっちゃっただけですよ(笑)

それはそうと、次話ではヴァンとご対面です。(多分)
考えてみれば、ケセドニアで別れて以来なんですよね。
本当にお久しぶりです。

どんな展開になるのやら、ゆにしあ自身も予測不能ですが、頑張って書くぞぅ!

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