Metempsychosis
in Tales of the Abyss

過去の選んだ未来

漆黒の翼と別れたアッシュとカンタビレは、昇降機などを乗り継いで貴族の居住区である最上層にいた。

「さて」

昇降機から降り立ったカンタビレが、誰にともなく呟いて辺りを見回して真っ先に目に入ったのは、当然ながら荘厳な造りのバチカル城。

そして、

「あれだね」
「…ああ」

バチカル城には劣るものの、それでも建ち並ぶバチカル貴族の豪奢な屋敷の中にあって尚、一目で分かるーーーーーーファブレ公爵邸。

これから2人、いや、アッシュは、『ルーク』として『帰宅』し、白光騎士団に昇降機の確保を『命令』する。

ファブレ公爵が不在か否か、ナタリアとルークの捕縛、そして連行の情報を白光騎士団の者達が知っているか否かによって状況は違うだろうが…ーーーーーー、

「ーーーーーーー…行くぜ」

…ーーーーーやらなければならない事をやる為に。


アッシュは一歩を踏み出した。




さて、その頃のリスティアータはと言えば…、

「……………」

1人、酷く古びた本を、読むともなく眺めていた。

先程まで共にお茶をしていたノエルは、アルビオールの整備をしたいからと機関室に行き、クロはリスティアータの膝の上に丸くなって眠っている。

ぺらり…と、また1つページを捲ったリスティアータが手にしているその本は、きっとルーク達の役に立つからと、アッシュがイオンから託されたものだ。

表装に『禁書』と刻印が押されたその本の著者はサザンクロス。
そして、そのタイトルは、

「……『液状化の原因と対策』……」

そう書いてある。

その内容はタイトルにある通り、大地液状化の原因を突き止めたサザンクロス博士が対策として発案した草案が記されているのだろう。

しかし、草案は専門用語が多用されているのに加えて酷く緻密で、素人がその内容を理解するのは至極困難だ。

かく言うリスティアータも例外ではなく、さっぱり理解出来なかった。

「…………」

ふ、と1つ息を吐いて、リスティアータはパタンと本を閉じる。

思う事は多々あった。

何故、とも…思う。

ーーーーー…何故、液状化の危機より利益を優先したのか。

ーーーーー…何故、この本を禁書にしたのか。

ーーーーー…創世暦時代の人々は、この事実…未来の危機の可能性を見て、何を思ったのか。

ーーーーー…たった1つの決断を、預言に記された繁栄より、預言に無くとも未来の平穏を選んでくれてさえいれば、今現在の世界滅亡の危機は…ーーーーー

そう思って、自嘲した。

思う事は多々ある。

何故、とも思う。

しかし、その全てが無駄で、無意味なのだ。

ーーーーー…過去は、消せない。

その過去があるからこそ、その未来を選んで…選び続けてきたからこそ、今の世界は危機を迎えているのだ。

それだけが事実で、現実。

「……………」

ス…、と表紙を…そこに押された禁書印を無言で撫でるリスティアータは…ーーーーーーーーーーーーーーーー…ただただ、無表情だった。




それから暫くすると、整備を終えたノエルも戻り、2人は再びお茶を楽しむ。

リスティアータに先程まで禁書を見ていた時の様子は見る影もない。

と、

「あ!」
「あら」

バチカルの外れから空に向かって一筋の煙が立ち上る。
その煙…狼煙(のろし)こそが、カンタビレ達と決めていた合図。

「えっと、片付けますね!」
「あら、ありがとう」

それ気づいたノエルは、ガタッと席を立つと自分とリスティアータのティーセットを素早く片付け、操縦席に向かった。

クロを抱いたリスティアータも座席に着いたのを確認して発進すると、程なく辿り着いた浜辺にいたアッシュ達を拾い、アルビオールはすぐに海に出る。

念の為にと浜辺とはバチカルを挟んだ反対側で狼煙を上げたが、迅速に離れるに越した事はない。

「お帰りなさい、アッシュ、カンタビレ」
「ただいま、姉上」
「ただいま戻りました、リスティアータ様」

にっこりと微笑むリスティアータに出迎えられて、2人もそれに笑顔で返した。

「無事で何よりだわ。アッシュも…頑張ったわね」
「…ああ」

そう言って改めて労ったリスティアータがアッシュを撫でると、アッシュもホッと息を吐く。

アッシュの表情はどこかスッキリとしていて、彼の中で何かしら吹っ切れたのだろうと、リスティアータもまた嬉しく思った。

「ルーク達は、無事かしら?」
「ああ」
「そう、良かったわ」

ルーク達の無事を喜んだリスティアータだったが、そのルーク達が進まなければならないルートは不穏な噂も相まって前途多難だろう。
それでも、今の自分達には彼等を信じるしかないのだ。

「それじゃあ、私達もベルケンドに向かいましょうか」

ふんわりにっこり。

ルーク達への心配も不安も感じさせないリスティアータの優しい微笑みに促され、アルビオールは一路ベルケンドを目指して出発した。




執筆 20110430




あとがき

なんだか久しぶりに夢主side書いた気がスルー(−ε−*)

次はやっとこさベルケンドです。

気合い入れて書くぞーぅ!
書き書き…((Φ(..。)

プラウザバックでお戻り下さい。

Back

×
人気急上昇中のBL小説
BL小説 BLove
- ナノ -