Metempsychosis
in Tales of the Abyss

思わぬ遭遇

アルビオールの航行は順調に進み、リスティアータ達はバチカル近郊に到着した。

陸に登れる浜辺がバチカルの傍で見つかったのは更なる幸いだっただろう。

順調過ぎて少々不気味だと思わなくはないが、アルビオールが停まるとそんな考えは追い払って、カンタビレは席を立った。
それにアッシュも続き、既に準備万端の2人は真っ直ぐに出入り口へと向かう。

「ノエル、合図したら頼んだよ。リスティアータ様、行って参ります」
「行ってきます、姉上」
「行ってらっしゃい、2人共。気をつけてね」

毎度と同じくにっこりと優しい微笑みで2人を見送ったリスティアータは、これまた毎度と同じくお留守番要員である。

前回の教訓から、バチカル付近でカンタビレとアッシュを降ろした後は少し離れた海上に待機し、2人からの合図を見て迎えに向かう事になっていた。

とは言え、海上でぷかぷかと浮かんで待っているのも暇なので、

「お茶にしましょう、ノエル」
「はい」

そう言われるのにも慣れたノエルもにこやかに応じ、2人はまったりとティータイムを楽しんだのだった。



一方、その頃のアッシュとカンタビレは、

「あらん?坊や…」
「……何だ」

バチカルに入って早々に思わぬ遭遇をしていた。

バチカルから出るらしいド派手な3人組とバッタリ対面した時だ。

男2人を従えてフェロモンを振り撒くように歩いていた女が器用に片眉を上げ、アッシュを上から下まで眺めだしたのだ。

坊や呼ばわりは勿論だが、ジロジロ見られては不愉快に決まっている。
自然と低くなった声で問えば、返って来たのは予想外の答えだった。

「髪切ったんじゃなかったかい?」
「何?」
「ああ、カツラかい」
「違うっ!」

明らかにルークと間違えられてる。

(それにしても…)

不名誉な結論に至った女に怒鳴るアッシュを余所に、カンタビレは記憶を辿っていた。

派手な、サーカスのような格好をした、3人組。
どこかで聞いたような気がしたのだが、と思って。

「……漆黒の翼…?」
「へぇ…あんた、俺達を知ってるのか?」
「そうなのか?」

浮かんだ名をポツリと零せば、敏感に聞きつけた(ひょろりと背の高い方の)男がニヤリと笑う。

どうやら正しいようなので、思い出したままをアッシュに教える。

「ルーク達がケセドニアで、国境の抜け道で金取ってたとか言う義賊に会ったって言ってたね」
「「!」」

少々気まずい所を突かれて黙った男を窘めるようにバシッとシバき、女がカンタビレを睨む。
しかしカンタビレはどこ吹く風。
女は不機嫌にフンっと鼻を鳴らした。

「…で?間違えてるって事は、こっちの坊やは別人って言うのかい?」
「坊やじゃねぇ」
「コイツはアッシュって言ってね。あんた達の言う『坊や』とは別人さ」
「…確かに別人のようだね」

こんだけ似てるのに?と言いたげな女に、苦い顔でアッシュが改めて否定するが、方向性はちょっとズレている。
カンタビレがフォローすると、女は漸く納得したようだった。

知りたい事を知って満足したのか、再び歩き出した漆黒の翼。

それを少しの間見ていたカンタビレは、次いでニヤリと笑った。
良いこと閃いた☆ではなく、悪いこと企んでます。と言った感じに。

「…何を企んでる」
「ちょっと『お手伝い』でも頼もうかと思ってね」
「!、あいつらをか?」
「『お小遣い』は必要だろうが、お互い懐は温かいだろう?」

つまりは、金で漆黒の翼を雇おうと言うのだ。

以前リスティアータとイオン誘拐の為に雇った連中だと思い出したアッシュがそれを伝えれば、カンタビレはあっさりと笑った。

「だったら尚の事、扱いやすくて良いじゃないか」

…確かに。

アッシュが反論出来ずに黙れば、それを無言の肯定と解釈したカンタビレは、既に遠くなりつつある漆黒の翼を呼び止めるべく踵を返したのだった。



結果、漆黒の翼を雇う事が出来た2人は、国民(特に市民や貧困層)からナタリアに寄せられる信頼の情報を得る。

ナタリアの評判は思った以上で、煽動するのに十分だと確信した。

それを漆黒の翼に依頼すると、女…ノワールはあっさり受ける。

「それぐらいお安い御用さ」
「これについての金は後払いだ。あいつ等がバチカルから出たら湿原を抜けてベルケンドに向かうだろうから、俺達もそこで合流する。金はその時に渡す」
「いいだろう。あたし等は連絡船で向かうが、アンタ達はどうするんだい?」
「こっちはこっちで足があるから、問題ないよ」

粗方の交渉が終わった頃、偵察に向かわせていた男達…ヨークとウルシーが戻ってきた。

「ご一行様はご到着かい?」
「早速お城へご招待されたようだぜ」
「そうかい。なら、さっさと始めようか」
「こっちは任せときな。じゃあね、坊や?」
「…坊やじゃねぇ」

カンタビレが茶化して問えば、調子を合わせてヨークが答える。
ルーク達を連行して来た連絡船が到着したのだ。

行動を開始すべくカンタビレが言うと、ノワールが実に頼もしい言葉をくれ、ついでにアッシュをからかう。

それに不愉快そうに眉を寄せたアッシュを笑い、漆黒の翼はバチカルの街中に消えた。

「あたし等も行こうかね」
「…ああ」

先を歩き出したカンタビレに続きながら、アッシュは上を…最上階を見る。

今から自分は『ルーク』として『家に帰る』。

複雑な気持ちにならない訳がない…のだろう。普通ならば。

アッシュ自身、バチカルに着くまではそんな気持ちを味わうのだろうと鬱々と思っていた。

しかし。

…今、アッシュの心は落ち着いていた。
感慨深いものがない訳ではないが、辛くはなかった。

何故、だろうか?

そう考えて、アッシュはフッと笑った。

解っている…理由なんて、他でもない。

『居場所』が、今の自分にあるからだと。

結論に至って満足したアッシュは…ーーーーーー


「…ぅがっ」
「余所見して歩いてるからだよ」

ーーーーーー…のっけから躓いた。



執筆 20110426




あとがき

カンタビレとノワールの口調が似てるを越えて同じという罠…orz
書き分けが難し過ぎる…!

シンクも似てるけど、シンクは自分を『僕』って言うからまだ分かり易いかと…。
そして最後までカッコつかないあっしゅ君(笑)
やれやれです…(。´-д-)≡3

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