Metempsychosis
in Tales of the Abyss

一方その頃、表舞台では… 下

モースの言葉通り、イオンは図書室にいた。

調べ物をしているのか、分厚い本を立ったままで読みふけっている。

図書室の中でも最奥の為か、周囲に人影がないのは幸いだった。

ルーク達の突然の来訪に驚くイオンに事情を説明すると、状況を理解した彼はひとつ頷くと、申し訳無さそうに言った。

「実は、僕、今まで秘預言を確認した事がなかったんです」
「え!?そうなんですか?」
「ええ。秘預言を知っていれば、僕はルークに出会った時、すぐに何者かわかった筈です。アクゼリュスの事も……回避出来たかも知れない」

それを聞き、顔を強ばらせたルークに柔らかく微笑んで、イオンは続ける。

「…ですから僕は秘預言を全て理解する為にダアトへ戻ったんです」

もう、知らずに後悔する事のないように。

そう言ったイオンに、ルークもふっと表情を和らげた。

しかし、その秘預言にセフィロトの暴走は詠まれていなかったと言う。

念の為に確認をと言い出したイオンをアニスが体に障ると心配して止めるも、イオンは必要な事だからと頑として受け入れず、ルーク達を引き連れて譜石が安置してあると言う礼拝堂の奥へと向かった。



案内された先には、鏡面仕上げのテーブルのように大きな譜石が安置されていた。

第一から第六までの譜石を結合して加工した物だというが、光や見る角度で色が変わるそれは美しい。

思わず見とれたルーク達を促して、イオンが譜石の前に立つ。

「導師は譜石の欠片から、その預言を全て詠む事ができます」
「導師が全部詠めるなら、リスティアータはどうなんだ?」

思い出したようにルークが訊くと、イオンはハッと目を見張った。

「リスティアータ様…ですか」
「ああ。此処に来る前に、リスティアータに詠んでもらえたらって言おうとしたら」
「リスティアータ様は、何と?」
「ん?『私は詠まない』って」
「そうですか…」

それを聞き、イオンは考え込んでしまった。

しかし、今は急を要する。

「リスティアータの話はまた後日で良いでしょう。今は崩落に関する預言をお願い出来ますか」
「そうですね。では、抜粋して詠みますね」

ジェイドに言われ、イオンは譜石に両手を翳した。

朗々と語られる秘預言。

それは『ルーク』の誕生日に始まり、ホドの消滅、『ルーク』とアクゼリュスの消滅、そして戦争の後に訪れるキムラスカ繁栄と、マルクトの滅亡が記されていた。

預言を読み終え、力尽きたようにイオンが膝を着く。

「イオン様!」
「…これが、第六譜石の崩落に関する部分です」

息を切らすイオンを心配しながらも、ルーク達は話し合った。

「やっぱりアクゼリュス崩落と戦争の事しか詠まれてないな…」
「もしかしたら、セフィロトの暴走は第七譜石に詠まれてるのかも知れないな」

そんな中、ティアがぽつりと言った。

「ーーーーーーローレライの力を継ぐ者って、誰の事かしら」
「ルークに決まっているではありませんか」
「だってルークが生まれたのは七年前よ」
「今は新暦2018年です。2000年と限定しているのだから、これはアッシュでしょう」

そう、確かにアッシュの……『被験者ルーク』の事が詠まれている。

しかし、次いで生まれる疑問。

それは次々と矛盾を生み出した。

アクゼリュスと一緒に消滅する筈のアッシュは今も生きている。

そもそも、アクゼリュスへ行ったのは『ルーク』だったのだ。

確かに後から『アッシュ』は来たが、その時点で彼は『聖なる焔の光』ではなく…ーーーーー。

暫く考え込む中で、矛盾の根源にいち早く辿り着いたのはティアだった。

そう…抜けているのだ。

「ユリアの預言にはルークがーーーーーーーーレプリカという存在が」

皆がハッとした。

言われてみれば、確かに全てがユリアの預言の中に収まった。

それはつまり…ーーーーー

「それってつまり、俺が生まれたから預言が狂ったって言いたいのか?」
「……ルーク?」

ポツリとあまりに小さかったルークの呟きを、ティアが不思議に思って彼を見た。

と、その時だ。

バンッと大きな音を立て、3人の神託の盾兵が礼拝堂に現れたのは。

「見つけたぞ、鼠め!」
「ヤバ…!」

大詠師派なのだろう、そう言って剣を抜くなり向かってきた彼らだったが、その時点で既に動き出していたガイとティア、そしてジェイドによって、それ以上争う事なく床に臥した。

しかし、先程の大きな音を聞きつけて他の神託の盾兵が来るのは時間の問題だろう。

未だ疲労に動けないイオンに逃げるように促され、リスティアータ達の待つアルビオールへと戻るべく駆け出した。

が、しかし、

ダアトから出られる目前に立ちはだかったのは、十数人は居る神託の盾兵達と、それを引き連れたモースだった。

「大詠師モース。もうオールドラントはユリアの預言とは違う道を歩んでいます!」
「黙れ、ティア!第七譜石を捜索する事も忘れ、こ奴らと馴れ合いおって!」

ティアの言葉に、強く反発したモースは、ユリアの預言に必要なのは『ルークの死』と『戦争』であり、その後に繁栄が訪れるのだと言い切った。

どんな相手だろうと、自分の死を望まれ、存在を否定されて、言葉が深くルークに突き刺さる。

そんな中、静かに詠唱を開始していたジェイドの後方から現れたのは、

「抵抗はお止めなさい、ジェイド。さもないと、この女の命はありませんよ」

カッコつけたポーズで立つ、ディストだった。

そしてその頭上には、ぐったりとしたノエルが、悪趣味なディストの浮遊椅子に座らされている。

一見して眠らされているだけのようだが、果たして…、

とは言え、人質を取られては抵抗出来ず、剣を突きつけられたルーク達…否、ジェイドを見て、ディストはとても楽しそうに笑った。

「はーっはっはっはっ!イイザマですね、ジェイド」
「お褒め頂いて光栄です」
「誰も褒めていませんよ!」

しかし、すぐに余裕綽々なジェイドを悔しそうに睨む羽目になった。

と、ルークが訊…

「リスティアータ、」
「リスティアータ様はどうしたんです」
「リスティアータ様ならば、本来いらっしゃるべきローレライ教団の居室にお戻り頂いたわ。お前達はバチカルへ連れて行き、戦争再会の為に役立ってもらうのだ」

…こうとして、ジェイドに遮られてしまう。

そして遮ってまで訊いたジェイドの問いに、ん?と思っていれば、意外にもモースがルーク達の処遇まで付け加えて御丁寧に答えてくれた。

「連れて行きなさい!」

ディストの指示に従って動き出した神託の盾兵に拘束され、ルーク達はバチカルへと連行される事になった。




執筆 20110411




あとがき

一方その頃…の続きでした。

ジェイドがわざわざ遮った理由も、ルーク達が「ん?」となった理由も、特別書かなくても大丈夫…で、せうか?

大丈夫だと、思っときますね。

長い&続き物になったので、先にupしていたのを『上』に変更しました。

べつにタイトル考えんのがメンドーとかそんなんじゃありませんから!

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