Metempsychosis
in Tales of the Abyss

幸せ?

ーーーーーーーーー…ぱっすん。

事はそんな間抜けた音から始まった。

ん?と思って全員が後ろを振り返ると、ひょろひょろ〜たすん、と力無く着地する椅子に乗ったリスティアータが。

「あら?」

リスティアータの意に沿わぬ事なのか、きょとりと首を傾げつつぽちっとスイッチを押すも、椅子は全く反応を示さない。

「あらあら?」
「これは…」
「もしかしなくても…」
「壊れちゃったみたいねぇ」

困ったわねぇ、と言いつつ全然そう見えないリスティアータに脱力しながらも、ルーク達はリスティアータ以上に困った顔をする。

「マジかよ…近くに街なんて無いぜ?」
「それ以前に、私達では譜業は解らないし、運ぶにしても…」
「う〜ん、かな〜り重そうだよねぇ」
「まぁ、止まってしまえば、ただの鉄屑ですからねぇ」

そうなのだ。

浮いていれば問題ないものの、完全に止まってしまえば鉄塊をくっつけた椅子。

はっきり言って邪魔にしかならない。

「その椅子は確か、ディストが作ったんでしたわね」
「ええ、そうよ」
「…まさか、呼ぶ、」
「ル〜ク〜?」
「ヒィッ」

訳にもいかないよなぁ、と軽い気持ちで言おうとしたルークは、いつの間に移動したのか、背後からジェイドに甘ぁく名前を呼ばれてビシィッと凍った。

肩にぽんと軽く置かれただけの筈のジェイドの手が、痛いッス!

めっちゃ痛いッス!!

そう言いたい。
言いたいが、言いたくない。
言っちゃいけない。
ジェイドが言わせたいのはそれじゃない。
それ以外を言ったらヤバイ…!
何かそんな気がスル…!

「ナ、ナンデモナイ…デス…」
「おや、そうですか」

途端、パッと何事もなかったかのようにジェイドが手を退けた。

恐怖から解放され、ルークは泣いた。

「で?だったらどうするのさ?」

呆れた顔でカンタビレがジェイドに訊けば、当人はにぃっこりと答えた。

「廃棄ですv」

それはもう爽快なジェイドだったが、反対にリスティアータは悲しそうに眉を下げる。

「まぁ…折角ディストさんから頂いたのに…申し訳ないわ…」
「そう言われましてもねぇ…」

律儀なリスティアータがそれを良しとする筈はなかったが、状況がそれを許してくれそうにない事も事実で…。

その問答は互いにどちらかが折れるまで続くかと思われた。

そんな時、

「な、なぁ、リスティアータ」
「あら、何かしら?」
「俺が見てみようか?」

ガイがおずおずと、いや、うずうずと?した様子で言い出して、リスティアータはきょとんと目を瞬かせた。

「まぁ、いいの?」
「勿論さ!まぁ、俺にも解る故障だったらの話ではあるけどな」
「嬉しいわ。では、早速お願い出来るかしら?」
「ああ!」

途端、ガイがキラーンと輝いた。

よほど嬉しいのか、気づけば戦闘中でもないのにオーバーリミッツまでしちゃっている。

その無意味に素晴らしい輝きを背に、ダッシュで近寄ったガイは、服が汚れるのも構わず椅子の下に潜り込んだ。

そして、

「ぉおお!!」

嬉々とした声を皮切りに、細かく手を動かしながらもガイは止まらない。

やれ連結がどうでこうだ、やれこの部品をここまで小型化が出来るだなんて云々、やれ、やれ、やれ…と、

誰に語るでもなく、ただひたすら1人でキラキラと語り続けるオーバーリミッツなガイは、筆舌に尽くしがたい程に幸せそうではある。

一同はドン引きしながら見守った。

「ガイ…」

戻って来―い。

そんなルークの呟きはあっさり無視。

暫くして無事に椅子は修理されたが、露骨に舌打ちするジェイドは怖いし、未だにオーバーリミッツ継続中のガイはいい加減ウザったいしで、ルーク達はぐったりと疲れ切っていた。

ガイに至ってはそんなに嬉しかったのかと言ってやりたい。

でも、言わない。

言ってやるもんか。

言ったら嬉々としてリスティアータの椅子の内部構造を語り出すに違いないのだから。

今以上にウザい思いをする機会を与える訳がない。

「あらあら、ガイったら、とっても幸せそうねぇ」
「そりゃぁもう!」

ーーーーー…はぁあ…。

のほほんとしたリスティアータとガイの会話に、誰ともなく(寧ろ全員が)深い深―い溜め息を吐く。


ルーク達の苦悩は、その後暫く続いた。




執筆 20110326










Projectにてゴロンさんからの投稿ネタ

「夢主の椅子が急に故障してしまい、ディストを呼ぶ訳にもいかない(ジェイドが呼ばせない)ので、ガイに直して貰おうという事に。」

を基に書いてみました。


久々の投稿ネタで書いてみました。

時期までは詳しく考えてませんが、大体アルビオール入手前のカンタビレ加入済みの間くらいかと。

タルタロスという矛盾を含みつつも、たら〜と流して下さい(笑)


投稿者のゴロンさんにはイイネタを下さった事に感謝を(*^^*)ありがとうございました♪

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