強制送還
「じゃあ、行ってくる」
「ええ、気をつけてね」
翌日、ダアト港付近に着陸したアルビオールから降りたルーク達は、イオンに会うべくダアトへと向かった。
今回も残ったリスティアータとカンタビレはそれを見送って、シュレーの丘の時と同様にカンタビレが外出する。
その後、リスティアータはノエルと2人で和やかなティータイムを過ごしていたのだが、
「動くな!」
乱暴に開かれた扉から、数人の神託の盾兵に侵入された。
瞬間、息を呑んで立ち上がり掛けたノエルだったが、剣先を突き付けられて椅子に戻るしかなく、
その向かい、丁度侵入して来た兵を背にする形で座っていたリスティアータは、ただ静かに瞳を閉ざした。
一方、その頃のカンタビレは、アルビオールから少し離れた林の中にいた。
倒した魔物の血が付いた剣を一振りして落とすと、ふと動きを止める。
そして、静かに動き出した。
気配を消して茂みからアルビオールの様子を窺って見たのは、兵に剣を突き付けられているリスティアータとノエルの姿で、
「……っ!」
ざわりと、怒りで殺気が溢れる。
それでも気配を乱したりしない辺り、流石と言えるだろう。
しかし、カンタビレは自分自身にも怒っていた。
気をつけていたつもりが、アルビオールから離れすぎていたと。
だが、今は自分への叱責などは後回しだ。
兵数人だけならば、カンタビレの敵ではないのだが、2人を人質に捕られた状況では…、と、
「リスティアータ!」
辺りに響く声に、意識をリスティアータ達より先に向けたカンタビレは、ぎゅわっと思い切り顔面全体を顰めた。
響いた声は、セントビナーの門前で暴れてぶっ飛ばされた馬鹿、ディストのもの。
そして、その隣には…
「お捜し致しましたぞ、リスティアータ様」
カンタビレが嫌悪を込めて『腐れ』と呼ぶ男、モースが、総勢50人はいるだろう神託の盾兵を引き連れて、実にエラソウに立っていやがった。
今すぐぶん殴りたい衝動に駆られたが、今ディストやモースに姿を見られるのは巧くないと思い出し、カンタビレは再び様子を窺う事に専念する。
とは言え、リスティアータを傷つけられる訳がないので、その点では心配していない。
それを言えば、ノエルの方が危険だろう。
「………」
「…っ、リスティアータ様にはダアトに戻って頂きますぞ!」
「ディストさん、お久しぶりですね」
リスティアータは尽くモースを無視した。
それにプライドだけは無駄に高いモースは顔をひきつらせたが、リスティアータは一切気にせず、ディストに話し掛ける。
「ええ!貴女も陰険ジェイドと一緒で苦労したでしょうが、もう大丈夫です!」
「ディストさんにお願いがあるんですけれど、」
「私にお願いっ!?な、何でも叶えてみせましょうとも!貴女の願いを叶えられる者など、私以外にありえませんからねっ!」
「まぁ。では、ノエルには一切危害を加えないで下さるんですね」
誰がどう訊いてもディストが一方的に熱い会話の中で、けろっとほんわかリスティアータが言った。
ディストは頭を真っ白にしながら慌てた。
これから人質にしようと思っていたのだろうから、当然だろうが。
「なっ、は!?」
「ありがとうございます、ディストさん」
「ちょっ、待っ!」
「はい?」
「な、何故私がっ、貴女以外の」
「まぁ…ダメなんですか?」
「ぐ…っ」
「………ディストさんが無理だと仰るなら…」
「わ、私に不可能などあるものですか!」
頑張って断ろうとしたディストだったが、とってもとっても残念そうに眉をハの字にしたリスティアータに、あっさり負けた。
そんなやり取りをする2人に、すっかり置いてけぼりにされた男が1人。
「ディスト!何をしておるか!さっさとダアトにお連れしろっ!」
無視された屈辱にか、顔を真っ赤にしたモースの叱責に、ディストはハッと我に返った。
「リスティアータにはダアトに戻って頂きますよ。約束は、まぁ守りましょう」
その会話を最後に、椅子を押されてダアトに連れて行かれるリスティアータを見送って、カンタビレが今後の行動について考えを巡らせようとした。
と、最初から準備してあったのだろう、ディストが懐から薬品の入った瓶を出した。
瞬間に疑ったのは毒。
しかし、先程の会話からもリスティアータとの約束をディストが違えるとは思えず、カンタビレがノエルを助けに動く事はなかった。
しかし怪しく光る眼鏡の男に近づかれて危険を感じない筈もなく、ノエルはざっと後退さった。
しかし、後ろにいた兵にすぐに拘束され、最後の抵抗とばかりに呼吸を止めて口をキツく引き結んだ。
「無駄な抵抗はお止めなさい。死にはしません」
面倒臭そうなディストが瓶を近づける度にノエルは抵抗を続けて顔を背けていたが、そう長く呼吸を止めていられる訳もなく、
「…っは、…!……ぅ、」
限界になって息を吸った途端、ノエルはくらりと意識を持って行かれ、ぐったりと兵に支えられて身動きが出来なくなり、意識を失った。
そして、ディストの椅子に乗せられたノエルが呼吸しているのを遠目ながらに確かめて、カンタビレもまたダアトへ向かうべく、移動を始めたのだった。
執筆 20110327
あとがき
この場合、救出のタイミングを間違えれば大変かつ面倒になるので、秘技・リスティアータのおねだりを発動し、ノエルの安全は確保しました。
後々でアニスがダアトは宗教自治区だから、そう簡単に危害を加えられない筈〜とか言ってましたが、ゆにしあは正直「どうだか」と思ったり。
だって、少なからず事情を知ってるノエルですから、ダアトから出すかどうか、判断の別れる所です。
結果、監禁されちゃうなら危害と同じじゃね?
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